ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ぬきさしならない依頼』ロバート・クレイス,高橋恭美子訳,扶桑社ミステリー,1993,1996

  ロスの探偵エルヴィス・コール・シリーズの第4作目の作品。ロバート・B・パーカーの強い影響を受けた、1980年代かと思わせるハードボイルド小説。

 自分の恋人の刑事がイライラして怒りっぽくなっているので、その原因を調べてほしいという女性の依頼人がエルヴィスのところへやって来た。その刑事は「リアクト・チーム」という麻薬や暴力事件を専門にしているチームのメンバーだった。その刑事を調べてみると、どうやらギャングのボスとつながっているらしい。彼らを追跡するのだがエルヴィスは罠にかけられてしまう……。

 著者がB級のハードボイルドミステリのファンで、当時の流行を詰め込んだという感じのストーリー。それが面白いといえば面白い。エルヴィスは正義感があるのかないのかわからないところも好感がもてる。ただ依頼人の依頼をこなしている感じのようにもみえるけど。

 エルヴィスは用心棒役の相棒も連れている。この相棒の存在もパーカーが産んで以来のもので、私にはその魅力がまったく理解不能です。バディ物は楽しいとは想うのですが、こういう役割では単なるバカに見えてしまいます。探偵一人では対処できない事件があり、解決するためには出現したほうがリアリティがあるのですが、それにファンがつくのも、どういう心理でファンになるのか、まったく想像できません。

 最後はドンパチして、派手に終わるのも、その時代らしさがあるのですが、☆☆☆というところ。これでスー・グラフトンはどこが好きになったんだ? グラフトンの作品のほうが知的でしょうが。 

ぬきさしならない依頼―ロスの探偵エルヴィス・コール (扶桑社ミステリー)

ぬきさしならない依頼―ロスの探偵エルヴィス・コール (扶桑社ミステリー)

 

 

『「ない仕事」の作り方』みうらじゅん,文藝春秋,2015

 みうらじゅん氏の今まで自分でやってきたことをまとめるビジネス書。まえがきで「本書が皆さんの仕事の役に立つことを願っています」と書かれていますが、そのとおりの内容となっています。

 どんな仕事であれ、「やりたいこと」と「やらねばならぬこと」の間で葛藤することが多いと思われます。それは私も同じです。そこで肝心なのは、そのときに「自分ありき」ではなくて、「自分をなくす」ほど、我を忘れて夢中になって取り組んでみることです。新しいことはそこから生まれます。

 という言葉には、「あのみうらじゅんでさえ、そうなのか」と心を打たれました。

 また、接待が大切だと言うこと。かなり具体的に、その重要性と方法が述べられています。酒が飲めない、コミュニケーションができない私には向いていないのですが……。その代わり、私の考えたことは、コミュ障をある人にお願いすることです。文章を書く世界、研究をする世界には、そういう人の確率が一般世間より高いのです。まあ、それには限界があって、私は一流の編集者にはなれないわけですが。

 しかし、本書の構成は、『中級作家入門』の松久淳氏ですよ。大槻ケンヂ氏の『サブカルで食う』も語り下ろしでしたが、このような自分の仕事についての本は、語り下ろしなんでしょう? いま別のマニュアル本を読んでいますが、それも同じです。こういうテーマは書きづらいのでしょうかねえ?  

「ない仕事」の作り方

「ない仕事」の作り方

 

 

 

こんな企画が欲しい――『このミステリーがすごい! 2017年版』『このミステリーがすごい!』編集部,宝島社,2016

 今年は視力の都合や仕事で忙しく、であまり本を読めなかったので、ランキングに入っているものは一冊もなし。

 しかし、このようなランキングをみると、書評って仕事とはいえ、新刊をきちんと読んでいる人って凄い。僕なんて、時間の無駄と思える小説は一切読みたくなくなったからね。キングやディーバー、コナリーとか毎回ランクインしているけど、飽きないのかな。少なくともキングはもう少し短くしてくれないと。まあ、このような書評家は、ほかに好きなジャンルや仕事をもっているんでしょうね。

  あと今回のオールタイム海外短編ミステリーベストテンはいい企画。古い短編を読むことは大切。だけど、近年のもリストアップしてほしいね。ついでに、毎年のこのミステリーがすごいの長編だけではなく、短編もあればいいよね。そこまでフォローしている人はいないだろうから、実現するのは難しいだろうけど。

 あと好きなのは、一つの作品を複数の人が評価する企画。ゲームや映画はあるんだから、もっと好みが細分化されているミステリはあってもいいよね。

 さらにいえば、ミステリなんてあらゆるジャンルがあるんだから、毎年なにかしらオールタイムを付録で企画を立ててほしいね。映画、テレビドラマ、マンガ(最近はコミックと言わなくなったなあ)、アニメぐらいは、すぐにできそうだね。あと、海外でもランキングをしていたら、その情報など。マニアックになってもよいから。

 あと、海外ミステリのキーワードとして、「暴力」だったと分析しているけど、そんなものなのかね。暴力を通じてでしか、世界を計れないなんて嫌なもんだね。それじゃあ、新参者が増えないよ。もっと別の言い方がないものなのかな。難しいね。だから評論というか今どこにいるのかを分析することだね。足りないのは。この作品や作家は、誰々の影響を受けているとか。そうすれば、少しは古い作品も脚光を浴びるよね。

このミステリーがすごい! 2017年版

このミステリーがすごい! 2017年版

 

 

ブックオフは専門書を増やしてほしい

workingnews.blog117.fc2.com

 このスレが面白かった。ブックオフはこのところ売り上げが落ちてきていると聞くと、そういえば私もブックオフに行ったものの本を購入することが少なくなりました。ようするに、ほしい本がないんですね。

 私は、ブックオフではマンガは購入せず、文庫や専門書がもっぱらの者なのですが、ここ数年はそれらが定価からあまり値引きされていない(たとえば、3000円の本が2600円の値付け)ので見つけても購入せず、新刊あるいはアマゾンのマケプレを利用してしまっています。

 文庫ではそのようなことはなかったのですが、文庫も定価の6~7割ぐらいで高く、しかもなかなか100円落ちしない。そうすると購入しなくなりますね。

 また、中古品の取り扱いがCDやDVDまでは良かったのですが、大型店ならともかく中型店でテレビなどのスペースのとる電化製品やフィギアなどを取り扱うようになってから、本のスペースが減らされて、それとともに、少部数の本、売れないと思われている本から取り扱いがされなくなっているように思います。

 本というのは、そのような中~少部数の本がほとんどで、それで売り上げを成り立たせないと経営的に難しいはずなんですよね。出版社の売り上げ構成でも、ベストセラーも大切ですが、少なくてもコンスタントに確実に売れる商品が多くそろってこそが販売部数的に大切なんで、それは書店も古書店も同じと思うんです。

 かつてブックオフは、古書店が捨ててしまったものを、本の差別をすることなしに、一律に販売することで、スクリーニングコスト・人件費を減らし、効率的にして、成功したはずなんです。それによって、ビジネス書が古書として注目されるようになったりしています。

 どんな本を買い取って、それから数か月は半額で、それから数か月経って売れないものは100均で扱う、さらに数か月で廃棄するというルールがあったはずです。その原点に戻ってくれないかなあと思います。そうすれば、専門書を持ち込む人が増えるはずですし、棚がもっとバラエティになるはずなんですよね。その原点に戻っていただけませんかねえ。

『生か、死か』マイケル・ロボサム,越前敏弥訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2014,2016 ☆☆☆☆

 作者はオーストラリアのベテラン作家で自国ではこれまで賞を受賞し、本作で英国推理作家協会賞ゴールド・ダカー賞、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞最終候補となったそうです。

 主人公は現金輸送車襲撃事件の犯人として逮捕された男、オーディ・パーマー。彼は10年の刑に服していたが、あと一日で釈放されるところにもかかわらず、脱獄を行った。いったい何故そのようなことをしたのか?

 という謎で最後まで引っ張るクライム・ミステリです。主人公の目的は何なのか、それを追うようよう何者かに命令される友人が追って、さらにFBI捜査官が過去の逮捕された事件を絡めて追っていきます。三者の現在、オーディの過去の話をスピーディにからめて、端的に説明していくので非常に読みやすく、キャラクター造形は、あのエルモア・レナードを彷彿させました。

 ラストシーンがちょっと弱いかなと思いましたが、全体的にみれば、描写と説明のバランスの良さが気持ちよく、☆☆☆☆です。また、あらためて、現代にレナードをよみがえらせることができるのだと、レナードはオンリーワンの良い作家だったんだなとかみ締めました。

生か、死か (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

生か、死か (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 

『2』野崎まど、メディアワークス文庫、2012――ロジカルな壮大なホラ話 ☆☆☆☆☆

 本書は何の予備知識もなく読み始めたのですが、野崎まど氏のとりあえず第1期の最後といえる作品でした。傑作です。今までの野崎氏の作品を伏線として、次第に、そしてたたみかけるように、ある壮大なホラ話となっていく様は、快楽としかいいようがありません。欠点と言えば、それを味わうためには、『アムリタ』からすべての作品を読まなくてはならないことだけです。

 本書は、今までの野崎作品と同様に、作品内でのロジカルな展開から、最後はSF的なオチへと向かいます。一見、非常に説得力があるように書かれているのですが、なぜ、そうなるのか、というと説明されていません。しかし、読者はその論理に連れて行かれてしまいます。これは、なかなかできることではありません。非常に限られた作家がもつ才能です。

2 (メディアワークス文庫)

2 (メディアワークス文庫)

 

 

『スリップに気をつけて』 A・A・フェア,宇野利泰訳,ハヤカワ・ミステリ 426,1957,1958――脅迫者を捜すラム

 バーサ・クール&ドナルド・ラム・シリーズ全29作中、17番目の作品。

 パーティで酔っ払った男が、若い女と一緒にホテルに行って、その女との情事がばれたくなければ金を払え、という脅迫の手紙が届いたので、どうにかしてほしいという依頼があった。その脅迫した人物を捜しに、ラムは若い女を捜す。

 中途でその脅迫した人物がホテルに胸に銃弾が撃たれて死体となって発見された。ラムはそれを発見したものの、警察に連絡することなく、依頼人の以来の捜査を続けるのだが……。

 ラムは口八丁で、女に取り入れ、男を捜し出すのですが、そこが冗漫だといえば冗漫だし、面白いと思えば面白い。ラストは、いきなり別の事件が関わって、ラムの独り語りで解決するのですが、あまりにも突飛で驚きました。最初から読み返すと一応は伏線が張っているのですが、もうちょっとはっきり絡ませて欲しかったですね。というわkで☆☆☆というところです。事件そのものは、メイスン・シリーズとは異なっていて、良かったんですけどね。

スリップに気をつけて (ハヤカワ・ミステリ 426)

スリップに気をつけて (ハヤカワ・ミステリ 426)