D・E・ウェストレイクの別名義で書かれた元刑事のハードボイルドミステリ。あらすじだけ見ますと、仕事でしくじった刑事が良心の呵責を追って塀づくりの仕事をして自らを罰するように暮らしているところへ、その元刑事のキャリアを知った者がトラブルを解決するよう依頼人として現れるという設定が、とても日本人向きなのですが、文庫化されていないように一般に人気がありません。
ただし、本シリーズを読みたくて、古本屋で探していたのですが、ポケミスが数多く扱っているところでも、まるで抜け落ちているかのように見つかりません。おそらくは、カルト的なファンがついているのではないかと思います。
さて、これはウェストレイクという作家についていえるのですが、なぜ海外では一般的な作家として人気があるのに、日本ではイマイチ人気がでないのかです。そのような作家は他に、ロス・トーマスがいますね。
犯罪組織(シンジケート)のニューヨーク支部長のアーニー・レンベクの愛人のリタ・キャスルが郊外のモーテルで殺されたところを発見された。同時にキャスルの金も奪われたらしい。レンベクは警察の捜査が及ぶ前に、犯人が組織内の6名の一人と思われるため、夫人に知られないため内々で犯人を見つけるよう元刑事のミッチ・トビンに依頼した。リタ・キャスルはアパートに「お別れします。男のなかの男をさがしあてたのであたしい人生をみつけます」とお別れの手紙を置いて、多額の現金をもって逃げたという。トビンは一人一人をあたってみるのだが……。
伝聞で知る殺人事件という設定はハードボイルド的、容疑者が限られているという点では謎解きミステリ的な感じがします。これがウェストレイクの狙いのようです。伝聞ということは提示された話が信頼できません。そのようななかで、事実を見極めどのような推理を提示するかがポイントになります。
この時代のハードボイルドミステリの文章は非常に行動を簡潔に記します。したがって一行も飛ばし読みすることができず非常に疲れます(その点チャンドラーがあまり疲れないののは何ででしょう?)。本書の犯人は意外性をもって終わるのですが、どうもイマイチな感じがします。というのは、トビンの設定と犯罪が結びついていないからです。何のための設定なのかが意味をもっていないような気がします。第1作目だからでしょう。それでも、その後のハードボイルドミステリに影響を与えた作品として読み応えがあって☆☆☆★というところです。