ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方』鈴木康之、日経ビジネス文庫、2008

 最近、文章についての本を少しずつ読んでいますが、その一つとして、古本屋で見かけたもので、まったく作者のことも知らなかったのですが、ほかの文章の書き方マニュアルと異なり、たくさんの広告・コピーを列挙することが特徴で、これが本書を読んでいると、文章の直し方というのか、文章は何のためにあるのか、そしてこんなもんでいいんだよと言われている気がします。

 でもエッセイなどではなく、コピーを考えるのに役立ちますね。とくに書籍の帯を考えるときに役立ちそうです。

名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方 (日経ビジネス文庫)

名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方 (日経ビジネス文庫)

 

『夜よ鼠たちのために』連城三紀彦,宝島社文庫,1986,2014

 連城氏の比較的初期のミステリ短編集。「二つの顔」「過去からの声」「化石の鍵」「奇妙な依頼」「夜よ鼠たちのために」「二重生活」「代役」「ベイ・シティに死す」「ひらかれた闇」の9編が収録されていて、一つひとつが様々なトリックが仕掛けられていて、読み進めるのに時間がかかります。しかし、初出が1981~1983年で古い作品だから当たり前なのですが、登場人物が古臭く感じるのなぜなのでしょうか。風俗がまったく書かれていないからでしょうか。同時代のほかの作品と比較しても、登場人物の思考が古いような感じがします。トリックが複雑でよいのですが、そこが残念ですね。☆☆☆★というところです。 

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)

 

『空が灰色だから 1~5巻』 阿部共実,少年チャンピオン・コミックス,2013

 『ちーちゃん』の他の作品を読みたいと購入したもの。ちなみに池袋の某大型書店には在庫がなかったのでネット購入です。難しいですね、なかなか。

 主に中学・高校生を主役にした短編集。作家の負担の大きい、人気をとれそうもない新人作家の短編の連載を少年週刊マンガ誌でやっていたことに驚きました。編集がこの作家の才能に惚れ込んでいたことがわかります。おそらく単行本でも売れるという確信はなかったはずです。

 『ちーちゃん』がある種文学的な内容でしたから、これも同じようなものかなと思っていたら、少年少女の過剰な部分、好きなこと、変なこと、心配していることなどをテーマにしていて、ギャグだったり、シリアスだったり、奇妙な話だったり、バラエティに富んでいました。

 

『ちーちゃんはちょっと足りない』阿部 共実,少年チャンピオン・コミックスエクストラもっと!,2014ーー少年少女時代のすでに忘れてしまったものを思い出させる

 ネット上で紹介されていて内容に興味をもったマンガで、ウィキペディアによると、「2014年に第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞。宝島社『このマンガがすごい!』2015年版オンナ編の第1位作品」と評価されておりました。私はタイトルさえ知りませんでした。

 なんといったらよいのか、自分がすでに忘れてしまったものを思い出させてくれる作品で、主役のちーちゃんとナツはもとより、そのクラスメイトたちがどうだったか、どのように見られていたか、不安のなかで生きていたこと、自分が小さいころ、いつも足りていないことに不満をもっていたことに共感し、そしてこの作品のなかではアンハッピーエンドではなかったことに安堵しました。

 人に薦めたいけど、実際には人に薦められない、それでも勧めざるをえない貴重な作品です。個人的は、キャラクター論を考えてしまいます。ナツは人の弱さをもっていてめちゃくちゃリアリティがありますよね。

『過去の傷口』スティーヴン・グリーンリーフ,黒原敏行訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ1672,1997,1999

  私立探偵ジョン・タナー・シリーズ全14作中第12作目の作品で最晩年といえます。このシリーズはパズル的なハードボイルドミステリをキープしているので、つまらないということがありません。

 タナーの友人のサンフランシスコ市警の警部補・チャーリー・スリートが裁判中の法廷で、民事訴訟の被告人を射殺したことで逮捕された。友人が殺人を犯したと信じられないタナ―は真相を探る。その裁判は幼児虐待事件で子どもが父親を虐待したと訴えが幼児虐待事件で、その父親を射殺したらしい。タナ―は元弁護士なので、チャーリーに弁護士をつけ、児童虐待事件を調べ、その事件とチャーリーのつながりを明らかにしようとする。

 ポイントは、犯人が分かっていて、その犯人がタナーの親友であること、その理由を探っていくことを目的としていること、刑事の法廷での射殺事件というショッキングな事件であること、その裁判が児童虐待という時代性を感じるものであることなど、さまざまな読み口があります。もしかしたら、チャーリーは人を間違えて射殺してしまったのではないか、など真相はコロコロ転がっていくのですが、確実なことはなかなかわかりませんし、チャーリーの動機なども、まあこうしておけば読者は納得するしかないし無難だなあと思います。

 しかし、最後のタナーの選択は非常に心苦しく、つらく感じます。内容は異なりますが、『もっとも危険なゲーム』を思い出しました。ここだけでも本書は読む価値があります。またここが、ハメットとの違いですね。いうわけで、ストーリーそのものは、まあ普通で、☆☆☆★というところです。

過去の傷口―私立探偵ジョン・タナー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

過去の傷口―私立探偵ジョン・タナー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

『生ける屍の結末――「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相』渡邊博史,創出版,2014

 『黒子のバスケ』脅迫事件の犯人の手記。さまざまな意味で興味深い内容となっています。 構成は大きく3つに分けられており、1章が事件の概要で、どのようにして犯行を行ったのかを詳細に語っています。2章が「裁判で明らかにかったこと」として、なぜこのような犯行を行ったか、自らの生い立ちから、心理的な自己分析を行っています。この自己分析が秀逸です。めちゃくちゃ面白く、なるほどと唸らせます。

生ける屍の結末――「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相

生ける屍の結末――「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相

『黒い風に向って歩け』マイクル・コリンズ, 木村 二郎訳,ハヤカワポケットミステリ1433,1971,1984ーー読者サービス満点のハードボイルドミステリ

 隻腕探偵フォーチューン・シリーズの第4作目の作品。このシリーズは、私立探偵小説の王道すぎて、隻腕があまりストーリーに影響を与えていないけれど、非常に歯ごたえがあります。とくに本書は、ストーリー展開が目まぐるしく、それに加えてちょっとしたニヤリとしてしまうシーンがあり、私立探偵小説ファンにとっては満足できるものでありオススメです。

 フォーチューンの依頼人は、ジョン・アンデラという45歳に見えるセールスマンだった。彼はニューヨーク州ドレスデン市の市長の娘・フランチェスカ・クロフォードがマンハッタンの自分のアパートで刺殺されたという新聞の切り抜きを見せた。アンデラは3カ月前から家出をし、偽名を用いていたフランと友人として付き合っていて、その殺人犯を探し出してほしいという依頼だった。そのために2000ドルを提示されたフォーチューンは彼の話は嘘だと思いつつも引き受けた……。

 まずダン・フォーチューンは友人のガッゾー警部補への協力して、モルグに同行して、フランチェスカの殺人現場となったアパートを訪ね、その管理人にフランチェスカの付き合っている男はいたのか聞くと、2人の男がいたと答えた。またフランチェスカが働いていた店に行った。翌日、もう一度アパートに行ってフランチェスカのルームメイトのシーリア・ベイザーにフランチェスカについて聞いたが知らないと言った。フォーチューンはその2人の男は誰だったのか、追求していくと、フランチェスカの思わぬ事実が分かるのだった……。

 怪しげな依頼人、殺人の犯人の捜査という依頼から始まって、フランチェスカという娘はいったいどういう人物だったかを追求していくことで、父親の政治活動に巻き込まれたかもしれないなど判明していきます。警察が知り合いとはいえ私立探偵に情報を提供するなど協力を仰ぐなど本当にあったのか、また偶然が重なって事実が判明するなど不思議でしたが、新しい事実がわかると、さらに新しい謎が提示され、それでもなかなか最後まで真相にたどり着かないスリリングな展開が見られます。

 市長、その後妻、依頼人の双子の娘、金融コンサルタント、実業家、その用心棒、弁護士、インディアンの長老など登場人物が出てきて、ブラック・マウンテン湖の開発とそれを阻止する自然保護運動家、その開発業者と市長との関係、フランチェスカ父親の計画を阻止していたのか、それで殺されたのか、そしてフランチェスカは実の父親がインディアンで彼を捜していたことがわかるなどストーリー展開も読めず盛りだくさんで、☆☆☆★というところです。ちょっとストーリーが分かりずらいということ、あとラストの一人二役の真相をフォーチューンが最後まで分からないことに無理があるのではないかということで点数を下げていますが、いい作品ですよ。あとタイトルが素晴らしい。最後まで読むと、じんわり心に響きます。