ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『拳銃使いの娘』ジョーダン・ハーパー、鈴木恵訳、ハヤカワ・ミステリ1939、2017、2019

 人気脚本家のミステリ小説デビュー作で、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。好意的な書評が多かったことと、最近のミステリにしては薄かったので手に取りましたが、わたしにはダメだった…。こういう、あえて破滅に向かっていく筋書きって昔は好きだったのですが、最近受け付けなくなってきました。それでも最後までは読み切ることができました。というのは描写が非常に映像的でテレビなり映画なり頭の中に浮かびます。というわけで、☆☆☆★です。

拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)

拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)

『コールドゲーム』荻原浩、新潮文庫、2002、2005ーー学園ミステリの魅力を大いに備えた佳作

 荻原浩氏の初期の高校生を主役にしたミステリ。高校3年生の夏休みを描いていて舞台が学校ではないので厳密には学園ミステリとはいえないけど、学校という窮屈な舞台を描いた学園ミステリの魅力を大いに備えた佳作で☆☆☆☆というところです。やっぱり文章がうまくてスルスル読めて、最後に苦い結末があるというのがたまらないですね。 

コールドゲーム (新潮文庫)

コールドゲーム (新潮文庫)

『傷だらけのカミーユ』ピエール・ルメートル、橘明美訳、文春文庫、2012、2016ーー読者を途中でやめさせない小説

 カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの長編第3作目の最終作品。ルメートルはミステリマニアのようで、このシリーズでも多くの作家に対して言及していますが、単なる引用というわけではなく、どのようにしたら読者に対して中途でやめさせないか、非常に研究している作家であり、それを実現させている作品だと思います。そのためには、多少の矛盾を無視していますので、それが気になる人にとってはイマイチに感じるでしょう。本作は構成がシンプルなためか最初から最後まで一気に読み切ることができます。

 宝石店の襲撃犯に偶然遭遇した女性・アンヌが暴力に巻き込まれ、銃などで殴られて顔面の骨折など重症を負った。その女性と親しい仲であったカミーユは女性の部屋の荒らされ方から偶然ではなく、犯人は女性をもう一度襲ってくると確信した。女性との関係性を出すことなく内密にそして警察組織を利用して令状なしで捜査をするなど強引なことを行ったカミーユであったが……。

 まさにノンストップ・サスペンス・ミステリで、前述したように最後まで一気読み。またカミーユとアンヌに対する描写が非常に引きつける。前2作とも同様に、肉体の痛みについて執拗に描写をして読者に感じさせる。というわけで、☆☆☆☆というところです。

傷だらけのカミーユ (文春文庫) (文春文庫 ル 6-4)

傷だらけのカミーユ (文春文庫) (文春文庫 ル 6-4)

『カササギ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ、山田蘭訳、創元推理文庫、2017、2018ーークリスティマニアのためのミステリ

 昨年、ミステリランキングの多くのベストに選ばれた謎解きミステリ。それもアガサ・クリスティ風のミス・マープル物のようなイギリスのミステリである。これを現代で成立されるのは非常に難しくそれだけでも貴重です。上巻は、イギリスの田舎の大きな屋敷の中で起こった事故が殺人だったかをめぐる謎解き、一転して下巻はミステリ小説家の自殺をめぐる謎解きで、この1つ目の事件が2つ目の事件の謎解きに寄与するというトリックである。まったく意味はわからないと思いますが、そこが凄いのです。

 というわけで、厳しいようだけど☆☆☆★というところである。クリスティならもっと切れがあるのだけれども、それがないためだ。しかし、このような作品が非常に受けるのがすごいなと思う。

 なかでクリスティマニアがいるというエピソードが興味深かった。やっぱり、いるんんですね。  

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

『御手洗潔の挨拶』島田荘司、講談社文庫、1987、1991ーートリックに奉仕する設定・舞台・展開

 1月後半から仕事が忙しく、長編は精神的に疲れるので日本の短編ミステリ集の中で選びました。

 本書は御手洗潔シリーズの第1短編集で昔読んでいますが内容はすっぽり忘れていました。『 数字錠』『疾走する死者』『紫電改研究保存会』『ギリシャの犬』の4編が収録されています。

 まず、私立探偵・御手洗潔の在り方や小説の文体が、伝統的な日本の謎解き小説の延長上にあることに驚きました。もっと海外よりかと思っていたのですが、近代というよりもホームズの時代ものをそのまま引き継いでいる感じがしました。

 また探偵の性格というか言動があまりにも突飛すぎて心理的に引いてしまいました。久々の御手洗物でしたが、こんな言動だったのかと。で、いつしか手に取らなくなってしまったのかもしれません。

 ミステリとしては、一つの短編に複数のトリックが仕込まれており、また大掛かりな仕掛けが非常に愉しい。とくに『疾走する死者』は謎は覚えていたのですが、トリックは忘れていて、今回読んで、このトリックを成立させるための舞台設定、ストーリーだったことで、というのは読者としては、この謎をバカバカしいと思うのではなく解けなければならない謎であったわけです。というわけで、☆☆☆★というところです。

御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)

御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)

『予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー』ジョン・コリア、井上雅彦、植草昌実訳、扶桑社ミステリー、2013ーー奇妙な設定、奇妙な筋の運び、奇妙なオチがある

 奇妙な味のさきがけの作家、ジョン・コリアの短編集。私は昔『炎のなかの絵』を読んでいるのですが、あまり記憶に残りませんでした。他の作家よりオチの強烈度が少ない、物足りないと感じたように思います。

 本書は約300ページに17の短編が収録されており、なかにはショートショートといえるものもあり、非常に帰りの電車のなかで読むにはお手頃でした。一つ一つについて、奇妙な設定、奇妙な筋の運び、奇妙なオチがあり、そのようなものを求めるには最適の短編集と言えるでしょう。というわけで、☆☆☆というところです。 

 それにしても、もう少し短編集を出版してほしい。短編集の売上部数はいいのですから。このような企画は奇妙な味に限らず、もっと様々なジャンルで行っても良いのではないでしょうか。

予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー (扶桑社ミステリー)

予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー (扶桑社ミステリー)

『レイチェルが死んでから』フリン・ベリー、田口俊樹訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2016、2018ーーサスペンスで、スリラーで、サイコもの

 本書は、新人作家のフリン・ベリーのデビュー作にして、2017年のエドガー賞最優秀新人賞受賞作。同時期に『東の果て、夜へ』があり、それを制したものとのこと。

 15年前に姉のレイチェルが殺されたのを発見した妹のノーラが主人公。ノーラは悲しみに暮れながらレイチェルとの思い出や妄想をもって毎日を過ごしつつ、レイチェルに親しい者に接触し犯人探しをしていた。そうしたら…

 現在のノーラの話と過去の思い出のノーラの話が交互に、あるいは境目がなく語られる。そのため、何が事実なのか妄想なのか読者は混乱してしまうが、あまりにもノーラの悲しみの深さにあまり気になりませんでした。

 と考えていたら、サスペンスなのか、スリラーなのか、サイコものなのか、どんどん転換していくところが面白い。あまり謎解き的な要素が少ないのですが、アメリカ人がイギリスを舞台にしているためか、非常に読みやすく(だからコクがない)、好感が持てます。というわけで、ちょっと評価が高めに、☆☆☆★というところです。

レイチェルが死んでから (ハヤカワ・ミステリ文庫)

レイチェルが死んでから (ハヤカワ・ミステリ文庫)