ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

人文科学

『性犯罪者の頭の中』鈴木伸元,幻冬舎新書,2014

著者はNHKのディレクターで、その番組取材をもとに書き起こした新書。正直言えば物足りないのですが、認知行動療法という性犯罪の対策が効果を上げている本書の報告を読む限り、「性犯罪は『ムラムラ』してではなく、『計画的』がほとんど」(47ページより)…

『二階の住人とその時代―転形期のサブカルチャー私史』大塚英志,星海社新書,2016

大塚英志氏が漫画家を目指しつつ、徳間書店のマンガ雑誌の編集者のアルバイトに誘われ、2年間ぐらい働いていたときの、『アニメージュ』を中心にどのようにオタクの「評論」文化が作り出されてきたかを自身の経験や見聞きしたことを交えて語ったもの。あの時…

『職場がヤバい! 不正に走る普通の人たち』前田康二郎,日本経済新聞出版社,2016

新聞の書評で取り上げられていて購入。作者はフリーランスの経理をしている人で、会社の不正といっても、横領などお金にかかわることが多いようです。 会社や周囲への仕返しのために不正に走る人がいる、不正は見つけるものではなく違和感として感じるもの、…

『読者ハ読ムナ(笑)―いかにして藤田和日郎の新人アシスタントは漫画家になったか』藤田和日郎,飯田一史,小学館,2016――むしろ編集者が勉強になるガイドブック

藤田氏と藤田氏の初代編集者の武者氏による漫画家を目指すアシスタントへのアドバイスをまとめたもの。 新人賞を受賞した新人漫画家が編集者の紹介で藤田氏のアシスタントになったという設定で、藤田氏は若い漫画家が不足しがちであることをどのように吸収し…

『日本語の作文技術』本多勝一,朝日文庫,1982

昔、読んだものを改めて読んでみて勉強になりました。読みやすい文章はどういうものか、正しく内容を伝えるにはどのようにしたらよいか、が具体的に書かれています。文章を書く人のとっても、編集者にとっても、気を引き締めなくてはならないことが書かれて…

『消えたい―虐待された人の生き方から知る心の幸せ』高橋和巳,筑摩書房,2014ーー被虐待児のうつの援助の必要性

被虐待児には、受けたもの特有のうつをもつ者がいる。そんな被虐待児の心理的特徴を記した本ですが、はっきりした被虐だけではなく、虐待ともいえない親からの小さな否定的な行為を受けた子どもたちまでも通じる内容となっています。 例として、発達障害児と…

『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル,鬼澤忍訳,ハヤカワ・ノンフィクション文庫,2009,2011

NHKの番組で評判になったハーバード大学の講義の教授であるサンデル氏のベストセラーになった哲学書。番組を文字起こしした書籍だと思っていたので、リアルタイムでは手に取らなかったのですが、やたらブックオフに置かれたいるので(表紙が目立つ)、手に取…

『100の思考実験: あなたはどこまで考えられるか』ジュリアン・バジーニ,向井和美訳、紀伊國屋書店、2005、2012

書籍の企画のネタになるかもしれないと思って手に取った本。「誰も損をしなければ何をしてもよいか?」「不平等が許される場合とは?」など哲学・倫理学の100のテーマについて、具体的な小話と解説が記されています。さらっと読んだだけですので、役に立つか…

『弱いつながり―検索ワードを探す旅』東浩紀,幻冬舎,2014

ネットは結局自分の興味のあるところだけを見るようになるため、視界が広がったようにみえて、実は狭くなっているといいます。それに対抗するには、観光する者として、自分の肉体をもっていくことが有用である。確かに一理あるかなと思います。しかし、それ…

『幻想の未来/文化への不満』ジークムント・フロイト, 中山元訳,光文社古典新訳文庫,2007

フロイトは大学時代に『精神分析入門』『夢判断』を新潮文庫で読んで以来です。10年くらい前に知り合いの勧めで、一冊何か手にとったのですが、まったくチンブンカンブンで難しかったため、中途で投げ出してしまいました。そういえば『夢判断』って、いつの…

『プロタゴラス―あるソフィストとの対話』プラトン, 中澤務訳,光文社古典新訳文庫,2010

光文社古典新訳文庫は当初『カラマーゾフの兄弟』のような文学作品から始まったような印象を受けますが、実際調べてみると、文学作品のみならず、哲学書など古典ならば何でも新訳をしているようです。でも、文庫ですから、ある程度の売り上げ部数を見込める…

『ヨーロッパ文化と日本文化』ルイス・フロイス, 岡田章雄訳注,ワイド版岩波文庫,2012

信長の時代にイエズス会宣教師ルイス・フロイスが、文化的なことから風俗的なことまで、ヨーロッパと日本と相違点をシンプルにまとめた資料的価値があるもので、拾い読みするだけでも面白いです。 たとえば「2 ヨーロッパ仁は大きな目を美しいとしている。…

『彼女たちの売春(ワリキリ)――社会からの斥力、出会い系の引力』荻上チキ,扶桑社,2012

出会い系喫茶にいる女性の売春について、直接女性たちにコンタクトをとって取材しデータをとったもの。直接、男性と交渉して売春することを割り切り(ワリキリ)といい、風俗にいる女性とは異なる、女性が金を得るための方法の一つとして必要なものとして存…

「特集=週刊少年サンデーの時代 トキワ荘から『うる星やつら』『タッチ』『名探偵コナン』そして『マギ』『銀の匙』へ―マンガの青春は終わらない」『ユリイカ 2014年3月号』2014

『サンデー』に興味がない人、肌が合わない人にとっては何でこんな特集が成り立つのかわからないでしょうけど、私のようなサンデーっ子にとってはよくわかるんですよ。『ジャンプ』でも『マガジン』でもなくて、やはり『サンデー』なんですよね。だから『サ…

『日本人はこれから何を買うのか?――「超おひとりさま社会」の消費と行動』三浦展,光文社新書,2013

2030年以降、全国的な中高年の1人暮らしの増加、大都市での高齢者の1人暮らしの増加、50歳以上の未婚・死別・離別の増加など「超おひとりさま社会」が出現するに当たって、その前兆を見せている現在、消費がどのように変化するのかを、マーケティングの視…

『新しい市場のつくりかた―明日のための「余談の多い」経営学』三宅秀道,東洋経済新報社,2012

何かの書評で興味をもって読んだもの。私の多くない経営学の知識でいうと、本書はドラッカーのいうイノベーションをどうしたら起こせるのか、その実践から理論を導くものなのかと思いました。経営学の書籍はほとんど読んだことがないけど、これは斬新なので…

『脳からみた心』 山鳥重、角川ソフィア文庫、1985、2013

1985年にNHKブックスから出版された書籍の文庫化。25年以上経っているのですが、中身はまったく古びておらず、内容の分かりやすさに感動しました(というかNHKブックスはそんな昔からあるのか)。 山鳥先生は神経心理学の大家で、本書は言葉・知覚・記憶の障…

『謎解き・人間行動の不思議―感覚・知覚からコミュニケーションまで』北原義典,ブルーバックス,2009

人間行動科学の入門書。一つの絵が二通りに見えるのは何故か、音声を録音したテープを逆に再生しても、例えば「だまされる」を「るれさまだ」と聞こえないのは何故か、二つのものが同じ重さでも同じ重さに感じないのは何故か、など実験や現象を提示して、そ…

『続・風の帰る場所―映画監督・宮崎駿はいかに始まり、いかに幕を引いたのか』宮崎駿,ロッキングオン,2013

雑誌『CUT』に掲載された渋谷陽一氏による宮崎駿氏へのインタビュー集。『崖の上のポニョ』『借りぐらしのアリエッティ』『コクリコ坂から』『風立ちぬ』が公開されるたびに行われたもので、毎回膨大な時間をかけたインタビューが残されています。 このよう…

『家族の違和感・親子の違和感―精神科医が読み解く「幸・不幸」』春日武彦,金子書房,2010

精神的に病んだり問題のある人とその家族に焦点をあてて書かれたエッセイ集。タイトルの「違和感」にあるとおり、その違和感を切り口にすえていて、新しい分類法になっているような感じがします。例えば、「コントロール願望」という言葉。自分をコントロー…

『哲学の起源』柄谷行人,岩波書店,2012

どこかは失念してしまいましたが書評で興味をもって手にとりました。イオニアの自然哲学から始まるギリシア哲学の起源を示したもので、なぜソクラテスの思想によって一つの完成をみせるのか、論理的に示しています。といっても、私の哲学の歴史の知識は大学…

『日本妖怪異聞録』小松和彦,小学館ライブラリー,1992→1995

日本の妖怪のなかの主要な妖怪をやさしく紹介したもので、誰でも理解できます。酒呑童子、玉藻前、是害坊天狗、崇徳上皇、紅葉、つくも神、大嶽丸、橋姫の物語を紹介し、それを民俗学見地からルーツはどこにあるかを推理するという体裁をとっています。 たと…

『中国化する日本――日中「文明の衝突」一千年史』與那覇潤、文藝春秋、2011

本書は好意的な批評が多く聞くので興味を持ったのですが、私のような歴史の知識に対して門外漢で、確たる歴史視点を持っていない者にとっては退屈な論文でした。 「本書は、歴史学の方法を使って、そのような新しい日本史を描きなおすものです。そこで鍵にな…

『暇と退屈の倫理学』國分功一郎,朝日出版社,2011.

昨年、書評などで評判になった哲学書。人間は物質的に豊かになるにつれて、生きるのに全面的に使わざるを得なかった時間に余剰が生まれた。それを「暇」という。さらに、行きすぎた資本主義がその暇を奪い合っている。「労働者の暇が搾取されている」(23頁…

「詩学――創作論」『世界の名著 8 アリストテレス』アリストテレス, 田中美知太郎訳,中央公論新社,前340年代→1979.

ギリシャの哲人アリストテレスの詩作(創作物)における創作論。以下は覚え書きです。読んでいると、『オデュッセイア』を批判していたり、創作オタクの評論のような気がしてきて、非常に興味深いです。 まず、詩(創作物)と、その作者である作家(詩人)の…

『こころの科学156号 特別企画=うその心理学』松本俊彦編、日本評論社、2011/02

本書は、「病名のうそ」「病気喧伝」「精神鑑定とうそ」「嘘つきとサイコパス」「発達障害とうそをつく能力」「解離とうそ」「薬物依存症とうそ」「自殺未遂者とうそ」「ギャンブラーはうそつきか?」「ホームレス者のうそ」「性的マイノリティとうそ」「性…

『憑霊信仰論――妖怪研究への試み』小松和彦、講談社、1994

サブタイトルにあるとおり妖怪研究の鳥羽口になった論文集。さまざまな文献とフィールドワークから表面的な物事の裏に何が現象として生じているかがきわめて論理的に述べられており、まるでそれは名探偵が推理を披露するかごときのものです。かつ新しい分野…

『こころの科学 148号 キレる――怒りと衝動の心理学』山登敬之編,日本評論社,2009/10

『こころの科学』はおそらく心理学関係者を対象とした雑誌ですが、特集によっては私のような素人が読んでも面白いことがあります。ことに私はワンテーマを複数の執筆者がそれぞれの立場から論を展開しているのが好きなので。この特集は2年前と古いのですが、…

『キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる』佐々木俊尚,筑摩書房,2011

タイトル通り、既存のマスコミのみならず、ツイッター、フェイスブックなどによる情報のやりとり・統合・つながりが行われ、それが力をもつようになる、いやすでになっているというもの。著者には申し訳ないけれど、主張は全面的に賛同しつつ、これはやっか…

『神話の力』ジョーゼフ・キャンベル, ビル・モイヤーズ, 飛田茂雄訳,早川書房,1988→2010

神話学の世界的権威のある学者キャンベルの神話に対する考え方をインタビューで語りおろしたもの。もともとテレビ番組の企画だったものを活字に起こしたものらしい。本書は名著だということは、昔の宝島社から出版されていたブックガイドなどから、さまざま…