ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

日本ミステリ

『爆発物処理班の遭遇したスピン』佐藤 究,講談社,2022ーー現代ミステリ短編の傑作集

『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞,第165回直木賞を受賞した作家の8本の短編を収めた短編集。才能ある作家には一冊傑作短編集があるけれど,本書はめったにない,その一冊。8本すべてがバラエティに富んでいて愉しめる。☆☆☆☆☆というところです。ちょ…

『かくして彼女は宴で語る—明治耽美派推理帖』宮内悠介,幻冬舎,2022ーー明治期の黒後家蜘蛛の会

宮内悠介氏の謎解きミステリで評判がよいという情報以外まったくもってなかったなか読んだら,明治時代の作家,詩人などの文化人の集まりの会が舞台で,そこで出された謎を舞台の西洋料理店の女中があっけなく解くという黒後家蜘蛛の会の日本版で驚いた。 し…

『蝉かえる』櫻田智也,東京創元社,2020ーー文章と構成に無駄のない短編

新人の第2作目の短編集にもかかわらず,『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』で9位,『このミステリーがすごい!2021年度版』で11位の作品。 表題作の「蝉かえる」の他に「コマチグモ」「彼方の甲虫」「ホタル計画」「サブサハラの…

『たかが殺人じゃないかーー昭和24年の推理小説』辻 真先,東京創元社,2020ーー密室殺人とバラバラ殺人

巨匠の辻氏の新作で『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』『このミステリーがすごい!2021年度版』の両方で1位の作品。 戦後の新制高校の3年生が舞台。推理小説研究会の風早勝利は同じ会に属する響子が気になっていた。そんなとき密…

『あの子の殺人計画』天祢 涼,文藝春秋,2020ーーこういう犯人像を謎解きミステリにもってくるのは難しい

『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』で7位,『このミステリーがすごい!2021年度版』で16位の作品で,かなりの評価を受けているといっていいでしょう。書店で手に取ったとき,全部で276頁という薄さに読む気になりました。短い長…

『希望荘』宮部みゆき,文春文庫,2016,2018ーー移動する私立探偵

『誰か』『名もなき毒』『ペテロの葬列』に続く杉村三郎シリーズの第4弾。前作で心に傷を負い仕事を失った杉村は私立探偵事務所を開設する。その経緯を含めた4つの事件を中編で収録したもの。タイトルはそれぞれ「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身(ドッペ…

『ノースライト』横山秀夫,新潮社,2019ーーバブル後の没落と再生

『クライマーズハイ』『64』の横山氏の最新刊。ミステリではないけれど,書評などで評判がよいので購入しました。 結論からいいますと,私には合わなかったな,と感じました。この文体は『クライマーズハイ』『64』でしたら,己の不屈の精神を呼び起こすスト…

『錆びた滑車』若竹七海、文春文庫、2018ーー濃密でいくつかのストーリーが絡まる

実を言うと随分前に読んだのですが、どうも当時心が死んでいたらしく記録をすることができなかったものの一つです。ですので印象のみ記します。 葉村晶シリーズ第6作目の作品。ベテランとも言える作家がこのようなムダの少ない濃密でいくつかのストーリーが…

『聖女の救済』 東野圭吾、文春文庫、2008、2012ーーほとんど全編がハウダニットの推理小説

日本ミステリを読もうと思って手に出したのは、東野圭吾氏のガリレオシリーズの第4作目の作品で長編としては、『容疑者Xの献身』の次の作品に当たります。私としては発表当時の評判はまったく覚えていません。というか東野氏の作品はやたら評判がよいという…

『モンスターズ』山口雅也、講談社文庫、2008、2011

山口雅也氏の「モンスター」に関連する短編を集めた短編集。「もう一人の私がもう一人」「半熟卵にしてくれと探偵は言った」「死人の車ーーある都市伝説」「Jazzy」「箱の中の中」「モンスターズーー怪物團殺害事件」の7編が収録されています。山口氏の作品…

『逃亡者』折原一、文春文庫、2009、2012ーー逃亡し続けるのは難しい

折原一氏の作品は何を読んで何を読んでいないか、わからなくなってしまいましたが、おそらく半分ぐらいは読んでいるかと思います。そして読むたびにいつも思うのは、 「なんて上手い文章なんだろう」ということ。叙述トリックを中心とした作風が求めた文体な…

 『ペテロの葬列』宮部みゆき、文春文庫、2013、2016

杉村三郎シリーズの3作目。このシリーズはアルバート・サムスン・シリーズを意識しているということで気になるシリーズで、主人公が肉体派ではなく、かといって知性派でもない、あくまでニュートラルなところを進んでいます。 主人公らは、バスジャック事件…

『悪の教典』貴志祐介、文春文庫、2010、2012ーー一気読みできる超弩級のエンタテインメント小説

私は貴志氏の作品はあまり合わないようで、あまり読んでいません。本書もベスト1を取るくらいなので気になってはいたのですが、どうも自分には関係ない作品のような気がして、今の今ままでまったくノー知識で読んでしまったら、あらあら驚き、こんな超弩級…

『天啓の殺意』中町信、創元推理文庫、1982、2005ーー時代を超えるということ

中町信の第6作目の作品。もとのタイトルは『散歩する死者』で創元推理文庫になるときに改題された。読んでみると、当時の欧米の謎解きミステリを知った上で、それを乗り越えていく野心的な作品でした。中途が退屈だったのが残念ですが。というわけで☆☆☆★とい…

『屍人荘の殺人』今村昌弘,東京創元社,2017ーー今まで読んだことのないミステリ

「デビュー作にして前代未聞の3冠! 『このミステリーがすごい!2018年版』第1位、『週刊文春』ミステリーベスト第1位、『2018本格ミステリ・ベスト10』第1位」という評価にして、何十万部も売れているベストセラー、そして、ラジオで東京創元社の編集者さ…

『悪いうさぎ』若竹七海,文春文庫,2004ーー私立探偵小説かと思わせた強烈なスリラー

私立探偵・葉村晶シリーズの第2作目・第1長編。『さよならの手口』『静かな炎天』が明らかに私の好きな海外ミステリの影響を受けていました。 2004年とずいぶん前の作品で、冒頭の葉村の心理描写がキンジー・ミルホーンの女探偵シリーズに似ています。 中途…

『完全恋愛』牧 薩次,小学館文庫,2008,2011ーー2009年度「本格ミステリ大賞」受賞作

辻真先氏の謎解きミステリ。2009年度「本格ミステリ大賞」受賞作で、2009年「このミステリーがすごい!」第3位、2009年「本格ミステリ・ベスト10」第3位。 タイトルは「他者にその存在さえ知られない罪を/完全犯罪と呼ぶ/では/他者にその存在さえ知られない…

『それまでの明日』原 尞,早川書房,2018ーー消えた依頼人を探す探偵

私立探偵・沢崎シリーズの長編5作目の14年ぶりの最新作。前作『愚か者死すべし』の内容は忘れてしまいました。調査中に引きこもりの少年と出会ったのは頭の片隅に残っているのですが。 11月のある日の夕方、渡辺探偵事務所に「紳士」が自分が消費者金融の支…

『夜よ鼠たちのために』連城三紀彦,宝島社文庫,1986,2014

連城氏の比較的初期のミステリ短編集。「二つの顔」「過去からの声」「化石の鍵」「奇妙な依頼」「夜よ鼠たちのために」「二重生活」「代役」「ベイ・シティに死す」「ひらかれた闇」の9編が収録されていて、一つひとつが様々なトリックが仕掛けられていて、…

『キングを探せ』法月綸太郎,講談社文庫,2011,2015

本書はランキングなどで評価を受けた謎解きミステリですが、どうも私には乗ることができませんでした。 こういっては読者として敗北なんですけど、殺人というものは、ほとんどの人にとって初めてで、その初めてのことを本書のようにやり遂げるのこと、また失…

『七つの会議』池井戸潤,集英社文庫,集英社,2012,2016ーーサラリーマンのジレンマを会議で示す

池井戸氏の中堅メーカー企業を舞台にしたクライムノベル。でも読んだ後でないとクライムノベルとわからない。最初にソフトカバーで出版されて、書店にたくさん並んでいたとき、タイトルが「会議」だし、半澤直樹シリーズがテレビで視聴率をとっていたから、…

『緋色の囁き』綾辻行人,講談社文庫,1993,1997ーー名門女子高の寮の連続殺人事件

綾辻氏の第4作目の作品(出版リストが出ているあとがきは便利だね)。本書が出版された当時、私は社会派には興味を持っていなかったものの、新本格派には入れ込んでいませんでした。それでも、『館シリーズ』の謎解き派が、本書のような謎解きとは別のミステ…

『不良少女』樋口有介,創元推理文庫,2007――文体を変える

柚木草平シリーズの短編集。「秋の手紙」(1995),「薔薇虫」(1998),「不良少女」(2001),「スペインの海」(2001)の4編が収録。表題作の「不良少女」は解決しないで唐突に終わったので驚いた。とはいっても,短編集としては,どの作品も愉しめる。 …

『さよならの手口』若竹七海,文春文庫,2014――事件の触媒としての探偵

昨年、各種ベストテンで好評を得た女性の私立探偵を主人公にした小説です。なかなか私立探偵小説は評価を得ることが難しいのですが。読んでみて、なるほど、と思いました。 読者と生活レベルが等身大的であり、欠点もあるけれど基本的に明るい、好感を抱く主…

『時計館の殺人〈新装改訂版〉(上)(下)』綾辻行人,講談社文庫,1991,2012

綾辻氏の「館シリーズ」の第5作目の作品。第1作目から工夫を凝らしていましたが、本書でもさらに新味と工夫を加えています。 鎌倉にある統計屋敷――日本有数の時計メイカーの前会長・古峨倫典が建築家・中村青司に設計を依頼した館で、通称「時計館」と呼ばれ…

『裏切りの明日―結城昌治コレクション』結城昌治、光文社文庫、1975、2008――時代を超えられず

さまざまなミステリを書いた結城昌治氏の初期~中期の作品。解説によると1965年発行で50年経っています。 主人公は独身の31歳の沢井という刑事です。沢井は普段は真面目な刑事で、かつ、仕事のこと、女のこと、金のことなど、さまざまな闇を抱えています。あ…

『闇に香る嘘』下村敦史,講談社,2014

江戸川乱歩賞受賞作。えらく評判がよかったようなので手に取りました。江戸川乱歩賞は執筆文字量の上限が少なく決められているにもかかわらず、キレイなどんでん返しを強要されるためか、受賞には作者に「技」をもつことが必要とされます。本書もそのとおり…

『刑事さん、さようなら』樋口有介,中公文庫,2011,2013,☆☆☆★――タイトルが怖い

樋口氏の第65回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)候補作。タイトルがちょっと変で気になっていましたが、読後になると、後で内容を反芻できる、なかなかよいタイトルだということがわかります。おまけにカバーイラストも同じ効果を与えている、…

尋常ではないキャラ立ち――『ロスジェネの逆襲』池井戸潤,ダイヤモンド社,2012

正しくはミステリではなくエンタメです。前作の続きで、主人公の半沢直樹が証券会社に出向されたところから始まります。面白いです。一つひとつの台詞がテレビドラマと同じ配役、リズムで脳内で再生されました。 しかし、この人たちは本業をほっぽり出して(…

『私がデビューしたころ ―ミステリ作家51人の始まり』東京創元社編集部編,東京創元社,2014

ミステリ雑誌に連載されたタイトル通りのテーマのエッセイをまとめたもの。作家になるプロセスがさまざまであることがわかります。そのなかで新人賞などのコンテストやベストランキングには向いていない作風だけれども、出版されてしまえば、ある程度のコン…