ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

日本ミステリ

『幻惑の死と使途』森博嗣,講談社ノベルス,1997

S&Mシリーズ第6作目の作品。森氏の作品は読者を騙すことよりも整合性のある物理的トリックが成立することに重きを置いているため、わりあいトリックが想像できます。そこが物足りなく感じるところですが、信頼に足る作家であるともいえます。 オープニングか…

『マンハッタン・オプI』矢作俊彦,ソフトバンク文庫,1981→2007

矢作氏のマンハッタンの名無しの探偵が主人公のショートハードボイルドミステリ集。正直言って、今の自分には意表を突かれる面白さでした。 私立探偵が主人公のハードボイルドミステリは、警察小説と異なり、マニアのみが好み、一般化されるまでに至りません…

『人質カノン』宮部みゆき,文春文庫,1996→2001.

宮部みゆき氏の初期短編集。「人質カノン」「十年計画」「過去のない手帳」「八月の雪」「過ぎたこと」「生者の特権」「溺れる心」の7つの短篇が収録されています。 クライムミステリではなく日常ミステリが主でトリックや謎に重きが置かれておりませんが、…

『小説講座 売れる作家の全技術――デビューだけで満足してはいけない』大沢在昌,角川書店,2012.

大沢在昌氏の小説の書き方講座。『小説 野性時代』に連載されていたものを再編集してまとめたもの。月に一回、12名のプロの作家志望者を集めて、テーマに合わせた短編小説の提出を課題にし、それにそって講義+作品講評をしています。 講演者が大沢氏ですの…

『ボトルネック』米澤穂信,新潮文庫,2006→2009.

パラレルワールドもののSFミステリ…ではないか。むしろSFと言い切っていいと思います。 主人公の嵯峨野リョウは2年前東尋坊の崖から落ちて死んでしまった恋人当時中2のノゾミを弔うために、現場に花を持って赴いた。そこで思わぬことから意識を失い、再び目…

『ビブリア古書堂の事件手帖――栞子さんと奇妙な客人たち』三上延,メディアワークス文庫,2011.

発売以来少しずつ発行部数を拡大したベストセラーシリーズ第1作目の作品。確かメディアワークス文庫の第1回配本作品の一つだったような気がします。メディアワークス文庫そのものは、アスキーメディアワークスがライトノベルから離れてしまった、あるいは卒…

『迷路館の殺人』綾辻行人,講談社文庫,1988→1992.

本書は「新本格ムーヴメント」の第一人者、綾辻行人氏の第3作目の作品。私は新本格の流れは掴んではいたものの、決して系統的に読んでいない、決してよい読者ではありません。それは、このムーヴメントが起きた頃は、謎解きミステリから興味が離れていってし…

『ピース』樋口有介,中公文庫,2006→2009.

新作『刑事さん、さようなら』で第65回日本推理作家協会賞候補作になった樋口氏の少し前のノンシリーズ作品。文庫になって書店のポップ広告から評判を呼び発行25万部のベストセラーになったとうかがって手に取りました。というのは、樋口氏の作風は、一部の…

『憎悪の化石』鮎川哲也,元推理文庫,1959→2002

鮎川哲也の長編第5作目の作品。第13回日本探偵作家クラブ賞受賞作。端正な謎解きミステリです。 熱海の旅館で外出せずに長逗留していた、湯田真壁という男が、その旅館の部屋で心臓を2回刺されて殺されたところを発見された。湯田の残していた鞄の中身から、…

『看守眼』横山秀夫、新潮社、2004→2009

横山氏のバラエティ短編集。「看守眼」「自伝」「口癖」「午前五時の侵入者」「静かな家」「秘書課の男」の6編。それぞれ読ませてくれます。とくに、小市民的というか、他人には大した苦悩ではないのですが、本人にとっては大変な苦悩を体感させてくれます。…

『重力ピエロ』伊坂幸太郎、新潮社、2006

本作は伊坂氏の四作目の作品にして出世作。それまでマニア筋に注目を浴びてはいたものの、ミステリファンにまでは浸透していませんでしたが、本作でミステリファンに認知されました。さらに編集担当者がつけたと思われる印象的なオビにより、一般の人々にま…

『13階段』高野和明、講談社、2001→2004

このほど直木賞の候補になった高野氏の江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作。歴代の乱歩賞のなかでも評判が高く、映画化もされています。 傷害致死で2年間服役していた27歳の三上が出所した。しかし、三上の犯罪による損害賠償金のため家族は借金を背負い、決…

『封印再度』森博嗣、講談社、1997

S&Mシリーズ第5作めの作品。岐阜県の旧家の高齢の画家が蔵の中で血まみれで死んでいた。殺人とも思われるが、蔵が密室であったことから自殺にも考えられた。その高齢画家の娘と友人であった西之園萌絵は事件に興味をもつ。昔、その高齢画家の父親も同じよう…

『ブラックペアン1988』海堂尊、講談社、2007、2009

本書はミステリではなく、ある大学病院外科学教室でのドラマです。1988年東城大学総合外科学教室に、帝華大学のビッグマウスの講師の高階が送り込まれてきた。高階は新しい外科器具を用いれば、食道がん手術を今まで以上に簡単に行えると主張し、佐伯教授ら…

『犯人に告ぐ』雫井脩介、双葉社、2004→2007

本作は、雫井氏の5作目の作品。第7回大藪春彦賞受賞、第2回本屋大賞7位、週刊文春(ミステリーベストテン)第1位、2005年度「このミステリーがすごい!」第8位など、大いに評価を受けていたので気になっていましたが、雫井氏の作品は『火の粉』を読んだきりで…

『片眼の猿―One-eyed monkeys』道尾秀介,新潮社,2007→2009

やはり本書は、人間を描くミステリというよりも、あくまでも変格謎解きミステリだと思う。いや、この頃では変格というよりも王道かもしれない。なぜならば、読者をどのようにしてびっくりさせるかを目的にしているミステリだからだ。だから評価できる。 新宿…

『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉,小学館,2010

書店の店頭で、帯の「47万部突破!」に惹かれて購入しました。東川氏の作品ははじめて。大企業の令嬢で刑事の宝生麗子お嬢様が捜査を行い、その執事の影山という若い男が推理をするというパターンの6本の連作短編ミステリ。トリックそのものはオリジナリティ…

『ミステリーの書き方』日本推理作家協会,幻冬舎,2010

ミステリ作家43名がアイデア、プロットの作り方、視点についてなどミステリ小説を執筆するコツを披露したもの。とくに印象に残ったのが東野圭吾氏の「オリジナリティのあるアイデアの探し方」。映画やマンガなどを読むとき、なぜそのように感じたのかを突き…

『粘膜蜥蜴』飴村行、角川書店、2009

飴村氏の第2作目の作品。第1作の『粘膜人間』がやたら面白かったので、こちらも期待。伊藤潤二氏のマンガをそのまま文章にしたような、一種戯画的な文体とキャラクターの立ち具合は相変わらずで、ぐいぐい読者を引き込みます。ホラーと言うよりもギャグで、…

『告白』湊かなえ,双葉社,2008→2010

ミステリとしての評価も高く本屋大賞も受賞したベストセラー。中島監督によるインタビュー形式の解説も面白く、映画も見たくなりました。とにかくリーダビリティが高く、『魔性の殺人』『この町の誰かが』に匹敵するぐらいでした。ミステリと言うよりもリド…

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』歌野晶午,講談社,2007→2010

その5名はネット上で知り合っただけで、お互いの顔も声も本名も知らない。彼らは実際に殺人を犯し、連続殺人、アリバイなどの謎を提示し、他のメンバーがその真相を推理しあうという「殺人ゲーム」を始めた。 中途で解説されているように、犯人が分かってい…

『失踪者』折原一,文藝春秋,1998→2001

折原一氏は本当に久しぶり。『冤罪者』以来です。本作もとても10年以上前の作品とは思えないぐらい古びていません。折原作品は次々と復刊されるでしょうね。けど、本作は長かったので、それがちょっと辛かったですね……。 埼玉県の久喜市で起きた二人のOLと短…

『夏期限定トロピカルパフェ事件』米澤穂信,東京創元社,2006

いわゆる、小市民たるべく振る舞おうとする高校2年生の二人の男女を主人公にする小市民シリーズ第2作目の作品。第1作目を読んでいますが全くストーリーの記憶がありません。主人公二人の面影が頭に残っているだけです。本作品は、4本の連作短編の形をと…

『小説家という職業』森博嗣,集英社,2010

森氏の小説家としての方法論と小説家をとりまく出版ビジネスについて書かれたエッセイ集。刺激的ではあるけれど、森氏だからこそだよなあ、森氏しか当てはまらないと嘆息すること多い。森氏は小説を発表する際に、1作目よりも2作目、3作目のほうが面白く…

『敗北への凱旋―連城三紀彦傑作推理コレクション』連城三紀彦,角川春樹事務所,1999

本書は、連城氏長篇第2作目の作品なんですか? 傑作推理コレクションの6作目ですし、すでに直木賞受賞後していたときの作品ですので、初期という感じがしませんでしたが、調べてみて少しオドロキ。 一言でいってしまえば、トンデモミステリ。連城氏がこん…

『おかしな二人』井上夢人,講談社,1993→1996――何度でも読むことができる傑作

気分が落ち込んで、鬱っぽくなり、エネルギーを要することが自発的にできなくなったときに読む本がいくつかある。その多くは、例えば『まんが道』『プレイボール』などのマンガであったけど、今回は既読の本棚に並んでいた本書を手にとった。本書は、井上氏…

『オーデュボンの祈り』伊坂幸太郎,新潮文庫,新潮社,2000→2003――真にオリジナルなデビュー作

新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した伊坂氏のデビュー作。以前から興味はあったものの、なぜか出会いがなく、これまで未読でした。 主人公は伊藤という若い男。彼は仙台から遠く離れたところにある牡鹿半島の南に位置する荻島という小島へ、見知らぬ男に案内さ…

『トーキョー・プリズン』柳広司,角川文庫,2006→2009

舞台は第二次世界大戦後の日本。ニュージーランド人の私立探偵エドワード・フェアヒールドが、スガモプリズンで起こった密室の殺人事件を捜査する物語。といっても、収監されている戦犯でかつ記憶喪失のキジマという男が推理するのだけど。また、キジマの戦…

『ユージニア』恩田陸,角川グループパブリッシング,2005→2008

名家に起きた大量毒殺事件を犯人逮捕を経て十年以上の経てから、各関係者が事件について、証言の述べるミステリ。ですが、あまり集中力をもって読まなかったので、何が何だか分かりませんでした。途中、青澤緋紗子について「?」なところがあったのですが、…

『このミステリーがすごい! 2010年版』宝島社,2009

海外ミステリ・ベスト20のうち、既読が『犬の力』『ユダヤ警官同盟』『メアリー-ケイト』、21位以下までみれば『幽霊の2/3』とまあまあ打率良く読んでいますね。今後は、『ミレニアム』『ソウル・コレクター』は文庫で、『バッド・モンキーズ』『泥棒は1ダ…