ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

海外ミステリ

ヘニング・マンケル,柳沢由実子(訳)『 五番目の女』創元推理文庫,1996,2010

ヘニング・マンケルのヴァランダー警部シリーズの第6作目の作品。とにかく読むのに時間がかかりました。年齢を重ねたうえに,消化すべきコンテンツが多くなった現在,このような長大な小説を読む時間は,ますます少なくなります。同じ時間を消費するなら映像…

『法廷遊戯』五十嵐律人,講談社,2020ーー謎解きというよりもスリラー

作者は若き現役司法修習生であり,デビュー作にして『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』『このミステリーがすごい!2021年度版』ともに3位の作品。たしか出版時にメフィスト賞受賞作であり,講談社,書評家などが大型新人として絶…

『ミラクル・クリーク』アンジー・キム,服部京子訳,ハヤカワ・ミステリ,2019,2020

作者は11歳でアメリカに移住した韓国人で弁護士で,本作はデビュー作。弁護士らしく法廷もので,エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞),国際スリラー作家協会賞,ストランド・マガジン批評家賞の各最優秀新人賞を受賞した作品。 ストーリーは,韓国人の移…

『笑う死体―マンチェスター市警エイダン・ウェイツ』新潮文庫,2018,2020ーー新しい衣装に古典的なトリックでしかける

久しぶりの新潮文庫の海外ミステリ。昔はたくさん読んだんだけど,最近は何故かご無沙汰。書体が読みやすく驚いた。内容も暗く暑苦しい感じが同じ新潮文庫の『ストーンシティ』を思い出した。内容はまったく覚えていないけど。 本作はイギリスのマンチェスタ…

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ (著),友廣 純 (訳) ,早川書房,2018,2020ーーミステリではなくロマンス小説

偶然,『透明人間は密室に潜む』と同じ 『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』で3位,『このミステリーがすごい!2021年度版』で2位の作品で,春先から書評で好評であり,かなり期待したましたが,勝手に失望しました。 というのは…

『ストーンサークルの殺人』M・W・クレイヴン,東野さやか訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2018,2020ーー犯人の意外性はとびきり

本作は作者のM・W・クレイヴンの初の翻訳作品。どうやら三作目の作品にして, 英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガーを受賞作。書店・書評などとともに,イギリスにはストーンサークルがたくさんあり(てっきり有名なストーンヘンジ1つだと思って…

『網内人』陳 浩基, 玉田 誠訳,文藝春秋,2017,2020ーーインターネットが導く犯罪

陳浩基氏の『13・67』の次の新作。よく考えてみれば『13・67』もそうだったけど,タイトルから内容を類推するのが難しいね。これは原著であれば,そうでもないのかもしれないけど。 とにかく2段組みで分厚くて大変だけど,慣れてしまえば訳文もこなれている…

 『弁護士ダニエル・ローリンズ』ヴィクター・メソス,関麻衣子訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2018,2020ーーこのようなことが現実にアメリカで起こるのか

アマゾンのレビューで評判がよかったので読んでみた作品。 作者は弁護士で,小説家デビューが2011年で現在まで50作以上あるという。ということは,ガードナーのように作風的には軽いものだろう,と考えたけど,半分想像通りでした。 とにかく展開がはやく,…

『死亡通知書 暗黒者』周 浩暉 (著), 稲村 文吾 (訳),ハヤカワ・ミステリ,2014,2020ーー著者の夢のミステリにのせて

kindle版ではなくて,ポケミスで読んだんだけど。しかし,ポケミスばっかり読んでるけど,新書という本当に持ち歩きに最適な大きさで,組版,用紙などがいいのわからないけど,読みやすくて,いいね。目に負担なく読むことができる。『三体』もポケミス版で…

『念入りに殺された男』エルザ・マルポ, 加藤かおり訳,ハヤカワ・ミステリ,2019,2020ーー殺人犯を仕立て上げるコントミステリ

本書は,昨年原著出版,今年翻訳という超スピード翻訳で出版されたフランスミステリ。『果てしなき輝きの果てに 』も今年原著・翻訳出版でしたから,出版社も大変だ。それともITで翻訳スピードが上がったのか。 翻訳してテキストを入力するだけでも時間がか…

『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン、長良和美訳、創元推理文庫、1995、1998ーー老人ホームでの殺人

リディア・チン&ビル・スミスシリーズ第2作目で、1996年シェイマス賞長編賞受賞作。第1作目は中国女性のリディアが主人公だったけど、本作は男性の私立探偵のビル・スミスが「わたし」であり主人公。この理由はわからないけど、いろいろな事件を対象にしたい…

『流れは、いつか海へと』ウォルター・モズリイ、田村義進訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2019ーーすべての陰謀は流れゆく

ウォルター・モズリイは処女作の『ブルードレスの女』を新刊で読んで失望して以来読んでいない。その処女作は面白くなかったからだ。しかしアメリカで評価を受けているということは翻訳されたもの以外のことが評価されていると感じた。たとえば文体や会話な…

『青銅ランプの呪』カーター・ディクスン、後藤安彦訳、創元推理文庫、1945、1983ーー人間消失トリックの謎に挑む

ヘンリ・メリヴェール卿もの第16長編ですから、わりあい後期ともいえます。表4に「人間消失の謎に挑んだ名作」と紹介されています。 エジプトから青銅ランプを持ち帰ったヘレン・ローリング嬢は、自宅の屋敷に入ったあとで、その屋敷からランプだけを残して…

『目くらましの道 』ヘニング・マンケル、柳沢由実子訳、創元推理文庫、1995、2007ーー謎解きミステリを警察小説で置き換える

クルト・ヴァランダー警部シリーズの第5作目の作品で、英国推理作家協会賞(CWA賞)最優秀長編賞作。代表作の一つといっていいでしょう。1995年発表でなんと20年以上前の作品で、いかにも当時流行ったシリアルキラー的な、斧で殺害し頭皮を剥がしていく犯人…

『三人の名探偵のための事件』レオ・ブルース、小林普訳、扶桑社ミステリー、1936、2017ーー密室、3人の名探偵による多重解決、どんでん返しなど探偵小説のお約束の要素がてんこ盛り

イギリスの1930年代にデビューしたミステリ作家レオ・ブルースのデビュー作。作風はイギリスミステリ黄金時代そのもので、シリアスではないユーモアミステリです。私は初読で、今までに読んだ中では、殺人をゲームとして扱っているという点で、バークリー、…

『厳寒の町』アーナルデュル・インドリダソン、柳沢由実子訳、東京創元社、2005、2019ーー新しいミスリードを誘うミステリ

アーナルデュル・インドリダソンの新作といっても、原著発行は2005年のかなりの旧作。インドリダソンは私と相性がよく、文章を読んでいても不快な気分になりません。今回もエーレンデュルの捜査のたたずまいや行動様式がメグレ警部に似ていて、メグレ警部物…

『最終章』スティーヴン・グリーンリーフ、黒原敏行訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2000、2002ーー熱狂的な愛読者をもつ作家が爆弾で襲われる

私立探偵ジョン・タナーシリーズ全14作中14作目の作品でラスト。原著は2000年ですからなんと19年前の作品ですね。これで新作が読めないとなると厳しいですね。 このシリーズは、ネオ・ハードボイルド小説として始まりながら、次第に普通に私立探偵+謎解き小…

『殺す者と殺される者』ヘレン・マクロイ、務台夏子訳、創元推理文庫、1957、2009ーーむしろ2000年以降に読んだほうが面白い

ヘレン・マクロイ全31作中17作目の作品。後期の作品かと思っていましたが、意外と中期の作品で、おそらく当時としては野心的で、ここまで翻訳が遅れたことのは意外性の極限を狙って滑ってしまったが、現在改めて読むと面白さを感じることができる作品といえ…

『誰よりも狙われた男』ジョン・ル・カレ、加賀山卓朗訳、ハヤカワ文庫NV、2008、2014

ジョン・ル・カレの第21作めの作品で、私にとっても久々です。 スパイ小説華やからしき頃は私のようなミステリ者もスパイ小説を読んでいたものです。しかしいつの間にやら読まなくなってしまった。ル・カレなどもその筆頭で、まずは名作の『寒い国から帰って…

『パリ警視庁迷宮捜査班』 ソフィー・エナフ、山本知子、川口明百美訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ1943、2015、2019ーーはみ出し捜査チームミステリ

フランスのジャーナリスト、作家、翻訳家、ライターのミステリ作家デビュー作。内容はいろいろな媒体に展開できるようになっていて、いかにもこれらの経歴を活かしきった作品でした。 パリ警視庁に新たに特別捜査班が設置された。メンバーは約20名で『相棒』…

『ディオゲネス変奏曲』陳浩基、稲村文吾訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2019ーー作者ファン向けの昔の香りのする短編集

『13・67』の作者・陳浩基氏の短編集。339ページで17編が収録されています。かねてから言われていたとおり、SFもあって、バラエティにとんでいます。ショートショートもありますが、落ちのある話というよりも、スケッチという感じで、ファン向けの短編集です…

『拳銃使いの娘』ジョーダン・ハーパー、鈴木恵訳、ハヤカワ・ミステリ1939、2017、2019

人気脚本家のミステリ小説デビュー作で、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。好意的な書評が多かったことと、最近のミステリにしては薄かったので手に取りましたが、わたしにはダメだった…。こういう、あえて破滅に向かっていく筋書きって昔は好き…

『予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー』ジョン・コリア、井上雅彦、植草昌実訳、扶桑社ミステリー、2013ーー奇妙な設定、奇妙な筋の運び、奇妙なオチがある

奇妙な味のさきがけの作家、ジョン・コリアの短編集。私は昔『炎のなかの絵』を読んでいるのですが、あまり記憶に残りませんでした。他の作家よりオチの強烈度が少ない、物足りないと感じたように思います。 本書は約300ページに17の短編が収録されており、…

『レイチェルが死んでから』フリン・ベリー、田口俊樹訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2016、2018ーーサスペンスで、スリラーで、サイコもの

本書は、新人作家のフリン・ベリーのデビュー作にして、2017年のエドガー賞最優秀新人賞受賞作。同時期に『東の果て、夜へ』があり、それを制したものとのこと。 15年前に姉のレイチェルが殺されたのを発見した妹のノーラが主人公。ノーラは悲しみに暮れなが…

『チャイナタウン』S・J・ローザン、直良和美訳、創元推理文庫、1994、1997ーー旧来のハードボイルド小説の文法に則ったデビュー作

私立探偵リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第1作目の作品。若い女性と年上の男性の私立探偵コンビが交互に語るミステリと書評で読んで、あのディック・ロクティのつまらなかった『眠れる犬』に近いものと思い避けていたのですが、試しに一冊読んでみる…

『虎の影』マイクル・コリンズ、水野谷とおる訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ1349、1972、1980ーー戦車と虎の影

隻腕私立探偵ダン・フォーチューン・シリーズ第5作目の作品。しかし翻訳は3番めにされているということは、前々作、前作よりも評価されてのものなのか、さらに帯に「ニューヨーク・タイムズ」の「複雑なプロットを見事にまとめた傑作」と書かれていること、…

『アメリカ銃の秘密』エラリー・クイーン、越前敏弥、国弘喜美代訳、角川文庫、1933、2014ーーフェアでないことをフェアにしようとした作品

「国名シリーズ」の第6作めの作品。わたしはミステリをクリスティから謎解き小説を広げ、それからハードボイルド、冒険小説などに移っていったのですが、謎解き小説中心時代でクイーンは半分ぐらい読んで通り過ぎてしまいました。ですので、「国名シリーズ」…

『憎悪の果実―私立探偵ジョン・タナー』スティーヴン・グリーンリーフ,黒原敏行,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1999/2001ーータナーは3度カマをかけて捜査する

私立探偵ジョン・タナー・シリーズ第13作目の作品。あと残りが少なくなってきました。本シリーズは、謎解きと意外な犯人がきちんと盛り込まれていて、ミステリとして正統派の貴重なシリーズだと思います。本書もまさしくそのような作品です。 タナーの入院先…

『魔女が笑う夜』カーター・ディクスン、斎藤数衛訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、1950、1982ーーカーだから許されるトリック

カーの24作目の作品。探偵ヘンリー・メリヴェール卿(H・M)が登場する第20番目の長編作品。田舎村で起こった無差別中傷手紙事件、それによる自殺、密室人間消失事件を内容としています。 イギリスの古く伝統のある村で、匿名で無差別に村人の根の葉もない嘘…

『13・67』陳浩基,天野健太郎訳,文藝春秋,2014/2017ーーどんでん返しが冴えわたる短編群

昨年の海外ミステリランキングの上位に挙げられた中国(香港)警察ミステリ。 ロー警部が関わる事件をもとにした6つの短編(というよりも中編)を2013年から1967年までさかのぼって収録されています。その6つの短編がそれぞれ謎解きミステリが濃く一つの短編…