ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

海外ミステリ

『東の果て、夜へ』ビル・ビバリー,熊谷千寿訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2016,2017ーークライムミステリ版スタンドバイミー

デビュー作にして、英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールドダガー受賞、同最優秀新人賞ジョン・クリーシー・ダガー受賞、全英図書賞(年間最優秀犯罪小説部門)受賞、ロサンゼルスタイムズ文学賞(ミステリ部門)受賞などを受賞し、昨年のミステリランキングに…

『カウント9』A・A・フェア, 宇野利泰訳,ハヤカワ・ミステリ,1958,1959ーーフーダニットよりもハウダニットで読者を引っ張る

クール&ラム・シリーズ全29作中18作目の作品。中期後半にあたります。 富豪家で探検家が開催したパーティで仏像と吹き矢が盗まれた。そのパーティではバーサが見張りを行っていたのだが。密室ともいえるところから、いったいどのようにして盗んだのか。また…

『湖の男』アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢 由実子訳,東京創元社,2004,2017――冷戦時代の悲劇は

エーレンデュル警部シリーズの第四作目の作品――ここで、ウィキペディアを見たら第六作目の作品とあるけれど、どちらが正しいのでしょうか。すでに15作もあるのでしたら、年2冊は翻訳・発行してほしいものです。やはり時代と合わせていなければ正当な評価はで…

『フロスト始末』R・D・ウィングフィールド, 芹澤 恵訳,創元推理文庫,2008,2017ーー凄腕の専門職役人はいつも面白悲しい

フロスト警部シリーズの最終巻です。これまでのシリーズと同様に楽しめました。 このシリーズってフロスト警部のキャラクターに強く寄っている思うのですが、フロストの魅力って、いったいなんでしょうねえ。日本の警察物にはあまり見られないんですよねえ。…

『過去の傷口』スティーヴン・グリーンリーフ,黒原敏行訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ1672,1997,1999

私立探偵ジョン・タナー・シリーズ全14作中第12作目の作品で最晩年といえます。このシリーズはパズル的なハードボイルドミステリをキープしているので、つまらないということがありません。 タナーの友人のサンフランシスコ市警の警部補・チャーリー・スリー…

『黒い風に向って歩け』マイクル・コリンズ, 木村 二郎訳,ハヤカワポケットミステリ1433,1971,1984ーー読者サービス満点のハードボイルドミステリ

隻腕探偵フォーチューン・シリーズの第4作目の作品。このシリーズは、私立探偵小説の王道すぎて、隻腕があまりストーリーに影響を与えていないけれど、非常に歯ごたえがあります。とくに本書は、ストーリー展開が目まぐるしく、それに加えてちょっとしたニヤ…

『失踪者』シャルロッテ・リンク, 浅井 晶子訳,創元推理文庫,2003,2017ーーリーダビリティあふれるドイツのベストセラー小説

今年出版された新刊です。しかし原著は2003年なのか、ずいぶん前のようです。ドイツのベストセラー作家で、解説によると日本では宮部みゆきにあたることらしい。 舞台はイギリスで、幼馴染の結婚式に海外へ渡るために、エレインはヒースロー空港に行ったが天…

『静かな炎天』若竹七海,文春文庫,2016――貴重な私立探偵小説

私立探偵・葉村晶の「青い影」「静かな炎天」「熱海ブライトン・ロック」「副島さんは言っている」「血の凶作」「聖夜プラス1」とタイトルの6つの短編をおさめた短編集。 私立探偵ミステリは、刑事ものや謎解きなど他のミステリに比べて少なくなってきてい…

『死はわが隣人』コリン・デクスター、大庭忠男訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ1661、1996、1998――大学の学寮長の選挙と殺人

先日は、コリン・デクスターが亡くなられたんですね。デクスターの功績といえば、やはり謎解きミステリをピーター・ラヴゼイとともに引っ張んてきたということでしょう。また、モース警部という個性的かつイギリスの探偵として伝統的なキャラクターを創造し…

『ヴェネツィアで消えた男』パトリシア・ハイスミス,富永和子訳,扶桑社ミステリー,1967,1997――先読みがことごとく外される

ハイスミスの長編22作中の11作目の作品。この前作が『殺人者の烙印』、この後作が『変身の恐怖』でハイスミスが絶好調だった頃。といっても、リストを見ても不調だった頃ってないよね。本作もとても1960年代とは思えない現代サスペンスミステリ。先が読めな…

『笑う男』ヘニング・マンケル,柳沢由実子訳,創元推理文庫,1994,2005ーー面白さが高村薫の初期の合田シリーズと似ている

非常に面白い小説でした。久しぶりです。ネットを中途でやめて続きが気になって読んでしまうなんて。20年以上前の小説とは思えません。とにかくキャラの描写のレベルが高く、コナリーと比べても素晴らしいのですよ。主人公の父とのコミュニケーションや警察…

『刑事くずれ』タッカー・コウ,村上博基訳,ハヤカワミステリ1181,1966,1972ーー日本人的なハードボイルドミステリだけど

D・E・ウェストレイクの別名義で書かれた元刑事のハードボイルドミステリ。あらすじだけ見ますと、仕事でしくじった刑事が良心の呵責を追って塀づくりの仕事をして自らを罰するように暮らしているところへ、その元刑事のキャリアを知った者がトラブルを解決…

『悲しみのイレーヌ』ピエール・ルメートル,橘明美訳,文春文庫,2006,2015――いかにもなミステリオタクのデビュー作

『その女アレックス』で評判を得たルメートルのデビュー作。『死のドレスを花婿に』が破たんしていたので、もうルメートルは読まなくてよいかなと思っていたら、その後に翻訳されいる作品の評判が良いことから、とりあえず順番に進めるということで手に取り…

『その雪と血を』 ジョー・ネスボ,鈴木恵訳,ハヤカワ・ミステリ 1912,2015,2016

昨年に翻訳されて書評で評判が良かった作品。巻末の作品リストによると、この作者は17作品出版しており、そのなかで6作品が翻訳されているのですが、主に集英社文庫だったためか、私は知りませんでした。書評などを読んでも、ピンと引っ掛かるものがなかった…

『生か、死か』マイケル・ロボサム,越前敏弥訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2014,2016 ☆☆☆☆

作者はオーストラリアのベテラン作家で自国ではこれまで賞を受賞し、本作で英国推理作家協会賞ゴールド・ダカー賞、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞最終候補となったそうです。 主人公は現金輸送車襲撃事件の犯人として逮捕された男、オーディ・パーマ…

『スリップに気をつけて』 A・A・フェア,宇野利泰訳,ハヤカワ・ミステリ 426,1957,1958――脅迫者を捜すラム

バーサ・クール&ドナルド・ラム・シリーズ全29作中、17番目の作品。 パーティで酔っ払った男が、若い女と一緒にホテルに行って、その女との情事がばれたくなければ金を払え、という脅迫の手紙が届いたので、どうにかしてほしいという依頼があった。その脅迫…

『森を抜ける道』コリン・デクスター、大庭忠男訳、ハヤカワ ポケット ミステリ、1992、1993ーーなぜ失踪した女子学生を探す詩が送られてきたか?

コリン・デクスターのモース主任警部シリーズ・全13作中に第9作目の作品。残りは少なくなってきました。本作は、英国推理作家協会賞ゴールド・ダカー受賞作ということは、トップの作品ですね。トリックそのものは、そういう作品です。 休暇でホテルに滞在し…

『欲望の爪痕』スティーヴン・グリーンリーフ,黒原敏行訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ1662,1996,1998――元恋人の婚約者で失踪した娘を捜す

私立探偵ジョン・タナー・シリーズ第11作目の作品。本作品の特徴は、元弁護士の普通の紳士的な私立探偵がコミュニケーションを武器に丹念に、依頼人の依頼に対して追っていくところでしょう。舞台は裏社会との関わりもなく、ある意味において、非常にリアリ…

『最悪のとき』ウィリアム・P・マッギヴァーン,井上勇訳,創元推理文庫,1955,1960

ウィリアム P.マッギヴァーンは第二次世界大戦後に活躍したミステリ作家で,主に悪徳警官ものが多いとされています。 日本の翻訳ミステリは,戦後から本格的になりますが,最初は戦前から引き続き,クリスティ,クイーンなどの謎解きものから紹介されていき…

『ひきがえるの夜』マイクル・コリンズ,木村二郎訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ1368,1970,1981――テーマは現代にも通じる

隻腕の私立探偵のダン・フォーチューン・シリーズの第3作目の作品。隻腕の設定は意味がないと思えるほど、本格的ハードボイルド小説です。 リカルド・ヴェガは大物俳優で演出家でプロモーターでもあった。ヴェガの舞台で女優のマーティーは役を得たがヴェガ…

 『YOU』キャロライン・ケプネス,白石朗訳,講談社文庫,2014,2016――ストーカーと普通の人の間

アメリカの新人の処女作。もっともケプネスは短編を多数発表していたり、雑誌やwebで記事を書いたり、放送作家や映画監督をしたりなど、多才な生きの良い人物のようです。年齢もわからないしね。本書は新聞の書評で、ストーカー小説だけど普通のものとは少し…

『ハードボイルド徹底考証読本』小鷹信光、逢坂剛、七つ森書館、2013

先頃亡くなられた小鷹氏と作家の逢坂氏のハードボイルド小説と映画についての対談本です。映画のところはすっ飛ばして、小説のところだけ読みました。このお二人ですからハメットの話ばかりでした。 翻訳作法のところが面白かったですね。エルモア・レナード…

『声』アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢由実子訳,東京創元社,2002,2015――ある男とその家族の悲劇  

インドリダソンの翻訳3作目の作品。これまでの中でもっとも素晴らしい作品でした。これが、2002年の作品か、なぜもっと早く翻訳されなかったのだという思いでいっぱいです。雰囲気は、メグレ警部シリーズに近く、それをもっとわかりやすく説明を加えたものと…

『もう年はとれない』ダニエル・フリードマン, 野口百合子訳, 創元推理文庫, 2012, 2014――ナチもののコミック・ミステリ

一昨年、翻訳ミステリでなかなかの評価を受けた、87歳の元敏腕刑事の老人が主人公のハードボイルド・ミステリ。というよりも、ナチもののコミック・ミステリでした。 元殺人課刑事のバック・シャッツは親友から臨終のときに、二人だけで昔の千艘の話としたい…

『ミステリマガジン700 【海外篇】』杉江松恋編、ハヤカワ・ミステリ文庫、2014 ――短編集をもっと発行してほしい

海外ミステリの短編集。まさに企画の勝利というか、今まで早川書房はこれだけの資産をどうして遊ばせていたのか、と思います。 収録された作家は、フレドリック・ブラウン、パトリシア・ハイスミス、クリスチアナ・ブランド、ルース・レンデル、ジャック・フ…

ミステリランキング2015

ここ数年、本当に読書量が落ちてきました。今年は昨年に引き続き、仕事が多忙だったことが大きいですね。本日も家で原稿を読んでいましたし……。 話がずれますが、会社の人員整理などで、人が少なくなってしまい、かといって会社全体の売り上げを下げるという…

『出口のない農場』サイモン・ベケット, 坂本あおい訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2014,2015

この著者の好評を得ている「法人類学者デイヴィッド・ハンター・シリーズ」は知りませんでした。本書は、そんな著者のノンシリーズで、サスペンスミステリ。 冒頭からイギリス人の若者のショーンがフランスで何者からか逃亡するところから始まります。森に逃…

『髑髏の檻』ジャック・カーリイ, 三角和代訳,文春文庫,2010、2015

前作までの私のカーリイ作品の評価、解説の千街氏の本作の評価の少なさ、各書評からいって、本作はあまり面白くないのかもと今回はスルーするかと判断していたのですが、たまたま書店で見かけてしまって、他にあまり食指が動く作品もなかったので、手に取っ…

『魔術師(イリュージョニスト)』ジェフリー・ディーヴァー, 池田真紀子訳,文春文庫,2003,2008

ディーヴァーは苦手だ。面白いことは面白いのだけれど、どうも、その面白さを十全に味わえていないというか、自分の中で上滑りしている感じがする。キャラクターのせいだろうか? どうしても主人公のライムに魅力を感じない。サブキャラクターも同じだ。それ…

『死への祈り』ローレンス・ブロック, 田口俊樹,二見文庫,2001,2006

マット・スカダー・シリーズ第15作めの作品。免許をもたない私立探偵という設定がそうさせるのか、他の私立探偵小説にはみられない独特の雰囲気をもつシリーズ。初期でシリーズを中止してしまった人も、このページターナーぶり、余韻の残るキャラクター描写…