ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『法廷遊戯』五十嵐律人,講談社,2020ーー謎解きというよりもスリラー

作者は若き現役司法修習生であり,デビュー作にして『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』『このミステリーがすごい!2021年度版』ともに3位の作品。たしか出版時にメフィスト賞受賞作であり,講談社,書評家などが大型新人として絶…

『ミラクル・クリーク』アンジー・キム,服部京子訳,ハヤカワ・ミステリ,2019,2020

作者は11歳でアメリカに移住した韓国人で弁護士で,本作はデビュー作。弁護士らしく法廷もので,エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞),国際スリラー作家協会賞,ストランド・マガジン批評家賞の各最優秀新人賞を受賞した作品。 ストーリーは,韓国人の移…

『笑う死体―マンチェスター市警エイダン・ウェイツ』新潮文庫,2018,2020ーー新しい衣装に古典的なトリックでしかける

久しぶりの新潮文庫の海外ミステリ。昔はたくさん読んだんだけど,最近は何故かご無沙汰。書体が読みやすく驚いた。内容も暗く暑苦しい感じが同じ新潮文庫の『ストーンシティ』を思い出した。内容はまったく覚えていないけど。 本作はイギリスのマンチェスタ…

『蝉かえる』櫻田智也,東京創元社,2020ーー文章と構成に無駄のない短編

新人の第2作目の短編集にもかかわらず,『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』で9位,『このミステリーがすごい!2021年度版』で11位の作品。 表題作の「蝉かえる」の他に「コマチグモ」「彼方の甲虫」「ホタル計画」「サブサハラの…

『たかが殺人じゃないかーー昭和24年の推理小説』辻 真先,東京創元社,2020ーー密室殺人とバラバラ殺人

巨匠の辻氏の新作で『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』『このミステリーがすごい!2021年度版』の両方で1位の作品。 戦後の新制高校の3年生が舞台。推理小説研究会の風早勝利は同じ会に属する響子が気になっていた。そんなとき密…

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ (著),友廣 純 (訳) ,早川書房,2018,2020ーーミステリではなくロマンス小説

偶然,『透明人間は密室に潜む』と同じ 『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』で3位,『このミステリーがすごい!2021年度版』で2位の作品で,春先から書評で好評であり,かなり期待したましたが,勝手に失望しました。 というのは…

『透明人間は密室に潜む』阿津川辰海,光文社,2020ーー読者を選ぶ作品

『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』で3位,『このミステリーがすごい!2021年度版』で2位の作品で,かなり期待したましたが,めちゃくくちゃ読者を選ぶ作品でした。そして私はその対象者ではありませんでした。 中編が4篇収録さ…

『あの子の殺人計画』天祢 涼,文藝春秋,2020ーーこういう犯人像を謎解きミステリにもってくるのは難しい

『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』で7位,『このミステリーがすごい!2021年度版』で16位の作品で,かなりの評価を受けているといっていいでしょう。書店で手に取ったとき,全部で276頁という薄さに読む気になりました。短い長…

『ストーンサークルの殺人』M・W・クレイヴン,東野さやか訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2018,2020ーー犯人の意外性はとびきり

本作は作者のM・W・クレイヴンの初の翻訳作品。どうやら三作目の作品にして, 英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガーを受賞作。書店・書評などとともに,イギリスにはストーンサークルがたくさんあり(てっきり有名なストーンヘンジ1つだと思って…

2020年度のミステリランキング『ミステリマガジン 2021年 01 月号』『このミステリーがすごい! 2021年版』

今年のミステリランキングが出されました。毎年ながら,こういうのを読むと,編集者や書評家,作家など仕事でないにもかかわらず,新刊を追っていく人たちというのは,すごい人たちだなあと感心します。 読んでみたい興味があるミステリは,昔よりどんどん少…

『希望荘』宮部みゆき,文春文庫,2016,2018ーー移動する私立探偵

『誰か』『名もなき毒』『ペテロの葬列』に続く杉村三郎シリーズの第4弾。前作で心に傷を負い仕事を失った杉村は私立探偵事務所を開設する。その経緯を含めた4つの事件を中編で収録したもの。タイトルはそれぞれ「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身(ドッペ…

『ノースライト』横山秀夫,新潮社,2019ーーバブル後の没落と再生

『クライマーズハイ』『64』の横山氏の最新刊。ミステリではないけれど,書評などで評判がよいので購入しました。 結論からいいますと,私には合わなかったな,と感じました。この文体は『クライマーズハイ』『64』でしたら,己の不屈の精神を呼び起こすスト…

『漫画家本SPECIAL スピリッツ本』川崎ぶら (監修), 輔老 心 (著),少年サンデーコミックススペシャル ,2020ーー雑誌の始まりと終わり

私は昔はスピリッツ子だったので,購入しました。勢いのあった創刊から週刊化までのことが多く書かれているのが嬉しい。昔「スピリッツ」が個人的なナンバー1の雑誌だったときがあったので,田舎で売れている「ヤンマガ」のほうが売れていると知ったときはシ…

『網内人』陳 浩基, 玉田 誠訳,文藝春秋,2017,2020ーーインターネットが導く犯罪

陳浩基氏の『13・67』の次の新作。よく考えてみれば『13・67』もそうだったけど,タイトルから内容を類推するのが難しいね。これは原著であれば,そうでもないのかもしれないけど。 とにかく2段組みで分厚くて大変だけど,慣れてしまえば訳文もこなれている…

 『弁護士ダニエル・ローリンズ』ヴィクター・メソス,関麻衣子訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2018,2020ーーこのようなことが現実にアメリカで起こるのか

アマゾンのレビューで評判がよかったので読んでみた作品。 作者は弁護士で,小説家デビューが2011年で現在まで50作以上あるという。ということは,ガードナーのように作風的には軽いものだろう,と考えたけど,半分想像通りでした。 とにかく展開がはやく,…

『死亡通知書 暗黒者』周 浩暉 (著), 稲村 文吾 (訳),ハヤカワ・ミステリ,2014,2020ーー著者の夢のミステリにのせて

kindle版ではなくて,ポケミスで読んだんだけど。しかし,ポケミスばっかり読んでるけど,新書という本当に持ち歩きに最適な大きさで,組版,用紙などがいいのわからないけど,読みやすくて,いいね。目に負担なく読むことができる。『三体』もポケミス版で…

『念入りに殺された男』エルザ・マルポ, 加藤かおり訳,ハヤカワ・ミステリ,2019,2020ーー殺人犯を仕立て上げるコントミステリ

本書は,昨年原著出版,今年翻訳という超スピード翻訳で出版されたフランスミステリ。『果てしなき輝きの果てに 』も今年原著・翻訳出版でしたから,出版社も大変だ。それともITで翻訳スピードが上がったのか。 翻訳してテキストを入力するだけでも時間がか…

『果てしなき輝きの果てに 』リズ・ムーア,竹内要江訳,ハヤカワ・ミステリ,2020,2020ーーリーロイ・パウダー警部補シリーズを好きな人は読んでみていいかも

このコロナ禍のなか,小説はiPadを購入したことで,電子書籍が中心となり,少し昔の作品を再読していたため,更新をしていませんでしたが,読んだ本の紹介や感想だけでなく,その日のよしなしごとを,たまには記しておきます。 本書は書評を読んでの購入で,…

『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン、長良和美訳、創元推理文庫、1995、1998ーー老人ホームでの殺人

リディア・チン&ビル・スミスシリーズ第2作目で、1996年シェイマス賞長編賞受賞作。第1作目は中国女性のリディアが主人公だったけど、本作は男性の私立探偵のビル・スミスが「わたし」であり主人公。この理由はわからないけど、いろいろな事件を対象にしたい…

『流れは、いつか海へと』ウォルター・モズリイ、田村義進訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2019ーーすべての陰謀は流れゆく

ウォルター・モズリイは処女作の『ブルードレスの女』を新刊で読んで失望して以来読んでいない。その処女作は面白くなかったからだ。しかしアメリカで評価を受けているということは翻訳されたもの以外のことが評価されていると感じた。たとえば文体や会話な…

『青銅ランプの呪』カーター・ディクスン、後藤安彦訳、創元推理文庫、1945、1983ーー人間消失トリックの謎に挑む

ヘンリ・メリヴェール卿もの第16長編ですから、わりあい後期ともいえます。表4に「人間消失の謎に挑んだ名作」と紹介されています。 エジプトから青銅ランプを持ち帰ったヘレン・ローリング嬢は、自宅の屋敷に入ったあとで、その屋敷からランプだけを残して…

『貧困女子のリアル』沢木文、小学館新書、2016

貧困というと生まれや環境からどうしようも対策を立てようもないものを浮かべますが、本書はそのなかの一部を記した11名のインタビュー・ルポで、誰もが一歩間違えれば陥るかもしれない事例でしたので、非常に興味深かった。筆者が女性のためか、男性著者の…

『錆びた滑車』若竹七海、文春文庫、2018ーー濃密でいくつかのストーリーが絡まる

実を言うと随分前に読んだのですが、どうも当時心が死んでいたらしく記録をすることができなかったものの一つです。ですので印象のみ記します。 葉村晶シリーズ第6作目の作品。ベテランとも言える作家がこのようなムダの少ない濃密でいくつかのストーリーが…

『聖女の救済』 東野圭吾、文春文庫、2008、2012ーーほとんど全編がハウダニットの推理小説

日本ミステリを読もうと思って手に出したのは、東野圭吾氏のガリレオシリーズの第4作目の作品で長編としては、『容疑者Xの献身』の次の作品に当たります。私としては発表当時の評判はまったく覚えていません。というか東野氏の作品はやたら評判がよいという…

『目くらましの道 』ヘニング・マンケル、柳沢由実子訳、創元推理文庫、1995、2007ーー謎解きミステリを警察小説で置き換える

クルト・ヴァランダー警部シリーズの第5作目の作品で、英国推理作家協会賞(CWA賞)最優秀長編賞作。代表作の一つといっていいでしょう。1995年発表でなんと20年以上前の作品で、いかにも当時流行ったシリアルキラー的な、斧で殺害し頭皮を剥がしていく犯人…

『裸のJリーガー』大泉実成、カンゼン、2018

主にJ3について、Jリーガーのセカンドキャリアについて、現状の報告と問題提起を目的にしたインタビュー集。J3の選手、町クラブのコーチ、森崎嘉之、安永聡太郎、西村卓朗、岡野雅行、磯貝洋光にインタビューを行っています。大泉氏も言及している通り技術を…

『三人の名探偵のための事件』レオ・ブルース、小林普訳、扶桑社ミステリー、1936、2017ーー密室、3人の名探偵による多重解決、どんでん返しなど探偵小説のお約束の要素がてんこ盛り

イギリスの1930年代にデビューしたミステリ作家レオ・ブルースのデビュー作。作風はイギリスミステリ黄金時代そのもので、シリアスではないユーモアミステリです。私は初読で、今までに読んだ中では、殺人をゲームとして扱っているという点で、バークリー、…

『漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018 《そうだ、起ち上がれ!! GET UP . STAND UP!!》』狩撫麻礼を偲ぶ会、双葉社、2019ーー土岐が探偵事務所を開く理由は

Amazonでおすすめされるまで気が付かなかった狩撫麻礼氏の追悼本で、ファンならばまったく損をしない充実した編集になっています。ちょっとこれ以上の追悼本は思いつかないくらいです。 かわぐちかいじ、江口寿史、松森正、大根仁のインタビュー・追悼の文章…

『厳寒の町』アーナルデュル・インドリダソン、柳沢由実子訳、東京創元社、2005、2019ーー新しいミスリードを誘うミステリ

アーナルデュル・インドリダソンの新作といっても、原著発行は2005年のかなりの旧作。インドリダソンは私と相性がよく、文章を読んでいても不快な気分になりません。今回もエーレンデュルの捜査のたたずまいや行動様式がメグレ警部に似ていて、メグレ警部物…

『三体』劉慈欣、立原透耶、大森望、光吉さくら、ワンチャイ訳、早川書房、2006、2019

久しぶりのSFです。わたしのSF歴は高校時代から、有名どころの作品を一通りではなく半分ぐらいかじってきた感じで、普通の人よりは読んでいる程度。例えば、『果てしなき流れの果てに』をまったく無情報(いま考えてみればすごい)で読んで、SFの醍醐味を味…