ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

私立探偵小説が好きな理由

私は私立探偵小説が好きである。その理由は、どこから収入を得ているのか、財産をもっているのかにかかわらず、彼らがフリーランスだからである。何の権力を受けず、権力から自由に生きることを選択しているからである。 そういう点からみると、警察官はしょ…

『モンスターズ』山口雅也、講談社文庫、2008、2011

山口雅也氏の「モンスター」に関連する短編を集めた短編集。「もう一人の私がもう一人」「半熟卵にしてくれと探偵は言った」「死人の車ーーある都市伝説」「Jazzy」「箱の中の中」「モンスターズーー怪物團殺害事件」の7編が収録されています。山口氏の作品…

『逃亡者』折原一、文春文庫、2009、2012ーー逃亡し続けるのは難しい

折原一氏の作品は何を読んで何を読んでいないか、わからなくなってしまいましたが、おそらく半分ぐらいは読んでいるかと思います。そして読むたびにいつも思うのは、 「なんて上手い文章なんだろう」ということ。叙述トリックを中心とした作風が求めた文体な…

『最終章』スティーヴン・グリーンリーフ、黒原敏行訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2000、2002ーー熱狂的な愛読者をもつ作家が爆弾で襲われる

私立探偵ジョン・タナーシリーズ全14作中14作目の作品でラスト。原著は2000年ですからなんと19年前の作品ですね。これで新作が読めないとなると厳しいですね。 このシリーズは、ネオ・ハードボイルド小説として始まりながら、次第に普通に私立探偵+謎解き小…

『殺す者と殺される者』ヘレン・マクロイ、務台夏子訳、創元推理文庫、1957、2009ーーむしろ2000年以降に読んだほうが面白い

ヘレン・マクロイ全31作中17作目の作品。後期の作品かと思っていましたが、意外と中期の作品で、おそらく当時としては野心的で、ここまで翻訳が遅れたことのは意外性の極限を狙って滑ってしまったが、現在改めて読むと面白さを感じることができる作品といえ…

『誰よりも狙われた男』ジョン・ル・カレ、加賀山卓朗訳、ハヤカワ文庫NV、2008、2014

ジョン・ル・カレの第21作めの作品で、私にとっても久々です。 スパイ小説華やからしき頃は私のようなミステリ者もスパイ小説を読んでいたものです。しかしいつの間にやら読まなくなってしまった。ル・カレなどもその筆頭で、まずは名作の『寒い国から帰って…

 『ペテロの葬列』宮部みゆき、文春文庫、2013、2016

杉村三郎シリーズの3作目。このシリーズはアルバート・サムスン・シリーズを意識しているということで気になるシリーズで、主人公が肉体派ではなく、かといって知性派でもない、あくまでニュートラルなところを進んでいます。 主人公らは、バスジャック事件…

『パリ警視庁迷宮捜査班』 ソフィー・エナフ、山本知子、川口明百美訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ1943、2015、2019ーーはみ出し捜査チームミステリ

フランスのジャーナリスト、作家、翻訳家、ライターのミステリ作家デビュー作。内容はいろいろな媒体に展開できるようになっていて、いかにもこれらの経歴を活かしきった作品でした。 パリ警視庁に新たに特別捜査班が設置された。メンバーは約20名で『相棒』…

『ディオゲネス変奏曲』陳浩基、稲村文吾訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2019ーー作者ファン向けの昔の香りのする短編集

『13・67』の作者・陳浩基氏の短編集。339ページで17編が収録されています。かねてから言われていたとおり、SFもあって、バラエティにとんでいます。ショートショートもありますが、落ちのある話というよりも、スケッチという感じで、ファン向けの短編集です…

『悪の教典』貴志祐介、文春文庫、2010、2012ーー一気読みできる超弩級のエンタテインメント小説

私は貴志氏の作品はあまり合わないようで、あまり読んでいません。本書もベスト1を取るくらいなので気になってはいたのですが、どうも自分には関係ない作品のような気がして、今の今ままでまったくノー知識で読んでしまったら、あらあら驚き、こんな超弩級…

『天啓の殺意』中町信、創元推理文庫、1982、2005ーー時代を超えるということ

中町信の第6作目の作品。もとのタイトルは『散歩する死者』で創元推理文庫になるときに改題された。読んでみると、当時の欧米の謎解きミステリを知った上で、それを乗り越えていく野心的な作品でした。中途が退屈だったのが残念ですが。というわけで☆☆☆★とい…

『マイホームヒーロー 第1巻~第7巻』山川直輝原作、朝基まさし作画、ヤングマガジンコミックス、2017~2019ーー先読みをまったくさせてくれない作品

私が歳をとったせいだろうか、主人公に共感してしまって、連載の1回めから目を離せない作品。とともに、先読みをまったくさせてくれない作品。少々ずるい部分もあるけれど、読者に先を読ませないためには、こうすればよいという見本を見せてくれる。 40代の…

『アナバシス―敵中横断6000キロ』クセノポン、松平千秋訳、岩波文庫、紀元前370年代、2002ーー脱出はエンタメの基本ですね

近所の図書館の新入荷コーナーに置いてあったのをたまたま拾い上げて読んでしまったノンフィクション・ノベル?(そこには三島由紀夫の現在の新潮文庫の活字の大きさにリメイクされた『午後の曳航』もあった) 手にとった理由は、「クセノポン…どっかで聞い…

『アマゾンの料理人―世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』太田哲雄、講談社、2018

先日、「激レアさんを連れてきた。」で放送された料理人の自伝的エッセイ集。内容的には「激レアさん」というよりも「クレージージャーニー」に近いけど、著者が非常に楽天的で、普通の人なら苦労としてじくじく記せるところをさらっと「こんなことがあった…

『拳銃使いの娘』ジョーダン・ハーパー、鈴木恵訳、ハヤカワ・ミステリ1939、2017、2019

人気脚本家のミステリ小説デビュー作で、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。好意的な書評が多かったことと、最近のミステリにしては薄かったので手に取りましたが、わたしにはダメだった…。こういう、あえて破滅に向かっていく筋書きって昔は好き…

『コールドゲーム』荻原浩、新潮文庫、2002、2005ーー学園ミステリの魅力を大いに備えた佳作

荻原浩氏の初期の高校生を主役にしたミステリ。高校3年生の夏休みを描いていて舞台が学校ではないので厳密には学園ミステリとはいえないけど、学校という窮屈な舞台を描いた学園ミステリの魅力を大いに備えた佳作で☆☆☆☆というところです。やっぱり文章がう…

『傷だらけのカミーユ』ピエール・ルメートル、橘明美訳、文春文庫、2012、2016ーー読者を途中でやめさせない小説

カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの長編第3作目の最終作品。ルメートルはミステリマニアのようで、このシリーズでも多くの作家に対して言及していますが、単なる引用というわけではなく、どのようにしたら読者に対して中途でやめさせないか、非常に研…

『カササギ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ、山田蘭訳、創元推理文庫、2017、2018ーークリスティマニアのためのミステリ

昨年、ミステリランキングの多くのベストに選ばれた謎解きミステリ。それもアガサ・クリスティ風のミス・マープル物のようなイギリスのミステリである。これを現代で成立されるのは非常に難しくそれだけでも貴重です。上巻は、イギリスの田舎の大きな屋敷の…

『御手洗潔の挨拶』島田荘司、講談社文庫、1987、1991ーートリックに奉仕する設定・舞台・展開

1月後半から仕事が忙しく、長編は精神的に疲れるので日本の短編ミステリ集の中で選びました。 本書は御手洗潔シリーズの第1短編集で昔読んでいますが内容はすっぽり忘れていました。『 数字錠』『疾走する死者』『紫電改研究保存会』『ギリシャの犬』の4編…

『予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー』ジョン・コリア、井上雅彦、植草昌実訳、扶桑社ミステリー、2013ーー奇妙な設定、奇妙な筋の運び、奇妙なオチがある

奇妙な味のさきがけの作家、ジョン・コリアの短編集。私は昔『炎のなかの絵』を読んでいるのですが、あまり記憶に残りませんでした。他の作家よりオチの強烈度が少ない、物足りないと感じたように思います。 本書は約300ページに17の短編が収録されており、…

『レイチェルが死んでから』フリン・ベリー、田口俊樹訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2016、2018ーーサスペンスで、スリラーで、サイコもの

本書は、新人作家のフリン・ベリーのデビュー作にして、2017年のエドガー賞最優秀新人賞受賞作。同時期に『東の果て、夜へ』があり、それを制したものとのこと。 15年前に姉のレイチェルが殺されたのを発見した妹のノーラが主人公。ノーラは悲しみに暮れなが…

『中動態の世界―意志と責任の考古学』國分功一郎、医学書院、2017

世界でこれまで見過ごされてきたことに対して、言葉を名付け見つけてきた論考であります。何も知識をもたず読む前は、「中動態」とは、be動詞のことで「在る」ことを示しているかと思っていましたが、全く異なるものでした。 とにかく、これから物事を考える…

『バビロン 1 ―女―』『バビロン 2 ―死―』『バビロン 3 ―終―』野崎まど、講談社タイガ、2015、2016、2017

野崎まど氏の新シリーズですが、本作も『Know』も少し退屈なんですよね。ついでに言ってしまえば『カド』も。この理由はおそらく官僚や政治家などを主役に据えているせいではないでしょうか。野崎氏のキャラクターは変人なので官僚などにやらせると少しリア…

『破獄』吉村昭、新潮文庫、1983、1986ーー四度脱獄した男の物語とその時代

どうという理由もなく吉村昭が気になって、観なかったけれど先日ビートたけし主演でドラマ化された本書を購入。 読む前は脱獄だけの物語かと思っていましたが、実際には横糸として明治以降の戦争を通した刑務所の歴史にそって書かれていて、ある視点からの戦…

『職業としての「編集者」』片山一行、エイチアンドアイ、2015

本書のカバーに『ビジネス書の「伝説」を超えられる!』と書かれている通り、主にビジネス書の編集のためのノウハウ本。私も広い意味でマニュアル本を編集しているので非常に勉強になりました。実はこういうノウハウは本を読んでも、あまり身につなないもの…

『チャイナタウン』S・J・ローザン、直良和美訳、創元推理文庫、1994、1997ーー旧来のハードボイルド小説の文法に則ったデビュー作

私立探偵リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第1作目の作品。若い女性と年上の男性の私立探偵コンビが交互に語るミステリと書評で読んで、あのディック・ロクティのつまらなかった『眠れる犬』に近いものと思い避けていたのですが、試しに一冊読んでみる…

『危機の宰相』沢木耕太郎、文春文庫、2006、2008ーーミステリのようなノンフィクション

池田勇人を中心にしたノンフィクション。「所得倍増」計画はどのように立ち上がっていったかをミステリのように解き明かしていく。 ノンフィクションというのは、事象を考え、文献を読み、取材によって新しい情報を得て、それを取捨選択し再構成していくもの…

『虎の影』マイクル・コリンズ、水野谷とおる訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ1349、1972、1980ーー戦車と虎の影

隻腕私立探偵ダン・フォーチューン・シリーズ第5作目の作品。しかし翻訳は3番めにされているということは、前々作、前作よりも評価されてのものなのか、さらに帯に「ニューヨーク・タイムズ」の「複雑なプロットを見事にまとめた傑作」と書かれていること、…

『BLUE GIANT SUPREME (6)』石塚真一、ビッグコミックススペシャル、2018

最近、大人買いしました。一種の天才物語ですね。天才物語といえば、山岸凉子氏や曽田正人氏ですが、ずいぶん異なります。それだけでも本作の意義はあります。もう少し悪人というか、清濁併せ呑むキャラクターがないのが物足りない。みな同じキャラクターに…

『漫画家本vol.9 細野不二彦本』少年サンデーコミックススペシャル、小学館、2018

細野不二彦さんのインタビュー集。書店で『あどりぶシネ倶楽部』『うにばーしてぃBOYS』『BLOW UP!』が別枠でインタビューされているのを見てすぐさま購入しました。本書の編集さんの意図にのせられたわけです。 細野さんといえば、『さすがの猿飛』があって…