ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『そしてミランダを殺す』ピーター・スワンソン、務台夏子訳、創元推理文庫、2015、2018ーー殺人は癖になるのか

書評などで評判がよかったサスペンスミステリ。 誰もが思う通り、空港で出会った男女がそれぞれ交換殺人を検討するところからはじまるように『見知らぬ乗客』に似ています。 もう少しキャラクターが立っていればよかったのですけど、でもそうするとリアリテ…

『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』カラー、東宝、庵野秀明、グラウンドワークス、2016ーー今後エヴァがどう変化するかが愉しみになった

映画『シン・ゴジラ』のメイキング本。「庵野総監督による企画メモやプロット、脚本(準備稿、決定稿、最終決定稿)、各クリエイターのデザイン画やイメージボード等を網羅して収録、庵野秀明、主要スタッフインタビュー」が収録されています。高価格ですが、…

『天使と罪の街』マイクル・コナリー、古沢嘉通、講談社文庫、2004、2006ーー連続殺人、暗号、捜索、犯人の追跡など盛りだくさんのエンタテインメントだけど

刑事 "ハリー・ボッシュ" シリーズ第10作目の作品。コナリーは、作品順に読むのが難しく飛び飛びになっていまっています。 コナリーの作品については、以前から書いていますが、ストーリーもキャラクターも面白いものの、わたしは割と作品としては否定的でな…

『ユニクロ潜入一年』横田増生,文藝春秋,2017ーーアルバイトに経営の視点は必要か?

仕事が忙しくて本は読んでいたものの感想を書くまではエネルギーが残されていませんでしたが、ようやく3冊分の編集作業が終えましたので、心の余裕が生まれました。とはいえ、後ろに受け流してしまった仕事が手元に残っているのですが……。そんな状況の私にと…

『アメリカ銃の秘密』エラリー・クイーン、越前敏弥、国弘喜美代訳、角川文庫、1933、2014ーーフェアでないことをフェアにしようとした作品

「国名シリーズ」の第6作めの作品。わたしはミステリをクリスティから謎解き小説を広げ、それからハードボイルド、冒険小説などに移っていったのですが、謎解き小説中心時代でクイーンは半分ぐらい読んで通り過ぎてしまいました。ですので、「国名シリーズ」…

『憎悪の果実―私立探偵ジョン・タナー』スティーヴン・グリーンリーフ,黒原敏行,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1999/2001ーータナーは3度カマをかけて捜査する

私立探偵ジョン・タナー・シリーズ第13作目の作品。あと残りが少なくなってきました。本シリーズは、謎解きと意外な犯人がきちんと盛り込まれていて、ミステリとして正統派の貴重なシリーズだと思います。本書もまさしくそのような作品です。 タナーの入院先…

『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさいー人生100年時代の個人M&A入門』 三戸政和、講談社+α新書、2018

前回までフリーランス関係書3部作のような形で読んでしまいましたが、今回は偶然ですがちょっとしたスピンオフになりました。会社をもつということは、立派なフリーランスの一形態ですよね。 ちょっと前に、知り合いの印刷会社の社長さんに「印刷業界はやっ…

『フリーランス、40歳の壁――自由業者は、どうして40歳から仕事が減るのか?』竹熊健太郎、ダイヤモンド社、2018 ーーフリーランスを一生持続していくということ

フリーランスを知る本の第3弾です。竹熊氏のフリーランスとしての遍歴と他のフリーランスとしてうまく乗り切ることができている人へのインタビューが紹介されています。なぜ40歳から仕事が減るのかという疑問ですが、まあそのとおりのことが書かれており、…

『フリーランスがずっと安定して稼ぎ続ける47の方法』山田竜也、日本実業出版社、2018

アマゾン検索で引っかかってタイトルだけで購入。著者はWebマーケティングを専門とする人で、サラリーマンを3年半だけでフリーランスとなっています。内容は著者の経験に基づいたフリーランスの指南書。この経験に基づいたというところがミソで、その点が説…

『仕事に能力は関係ない。ー 27歳無職からの大逆転仕事術』中川淳一郎,KADOKAWA,2016

著者の経験をもとにして、フリーランスで仕事をとり、どのようにして生きていくかを語ったもので、今の私には非常に面白かったですね。ギャラについて、例えば『〇〇』という雑誌で1ページ編集すると5万円フリーの編集者に示されていて、ライター、イラス…

『隣接界』クリストファー・プリースト,古沢嘉通,幹遙子訳,早川書房,2013,2017

プリーストの新作で昨年評価されたようです。私にとっては『奇術師』『魔法』『双生児』に続く4作目です。集大成的な作品と評価されており、確かに奇術師、双生児が出てくるし、そう言われてみればそうです。しかし話は最後まで謎でした……。 隣接界 (新☆ハヤ…

『魔女が笑う夜』カーター・ディクスン、斎藤数衛訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、1950、1982ーーカーだから許されるトリック

カーの24作目の作品。探偵ヘンリー・メリヴェール卿(H・M)が登場する第20番目の長編作品。田舎村で起こった無差別中傷手紙事件、それによる自殺、密室人間消失事件を内容としています。 イギリスの古く伝統のある村で、匿名で無差別に村人の根の葉もない嘘…

『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』岡田麿里,文藝春秋,2017

アニメの脚本家・岡田磨里氏の自伝。不登校の時代から脚本家になるまでの軌跡を記しています。私としては、脚本家になるための一例として、または岡田氏の脚本のもとになるものとして、非常に面白く読めました。 アニメだけではなく、脚本ありきではなく、監…

『ルポ 消えた子どもたちー虐待・監禁の深層に迫る』NHKスペシャル「消えた子どもたち」取材班,NHK出版新書,2015

現代社会において「消える」というのはどういうことか、がわかります。映画の『誰も知らない』を想像していましたが、本書では主に自宅監禁されていた子どもたちのことをルポしています。どのような事例があるのか、件数はどのくらいなのかを示し、NHKのテレ…

『屍人荘の殺人』今村昌弘,東京創元社,2017ーー今まで読んだことのないミステリ

「デビュー作にして前代未聞の3冠! 『このミステリーがすごい!2018年版』第1位、『週刊文春』ミステリーベスト第1位、『2018本格ミステリ・ベスト10』第1位」という評価にして、何十万部も売れているベストセラー、そして、ラジオで東京創元社の編集者さ…

『悪いうさぎ』若竹七海,文春文庫,2004ーー私立探偵小説かと思わせた強烈なスリラー

私立探偵・葉村晶シリーズの第2作目・第1長編。『さよならの手口』『静かな炎天』が明らかに私の好きな海外ミステリの影響を受けていました。 2004年とずいぶん前の作品で、冒頭の葉村の心理描写がキンジー・ミルホーンの女探偵シリーズに似ています。 中途…

『 テヘランからきた男―西田厚聰と東芝壊滅』児玉 博,小学館,2017ーー東芝はなぜ凋落したか

元東芝社長についてのノンフィクション。新聞か何かの書評で気になって手に取りました。私は企業物や経済物などのビジネス書については、まったくの門外漢なので、東芝はアメリカの原発企業を高値で買い取って大いなる負債を抱えて倒産しそうになったところ…

『爆走社長の天国と地獄―大分トリニータv.s.溝畑宏』木村元彦,小学館新書,2010,2017ーーやはり間違っていたのではないだろうか?

一言でいえば傑作です。Jリーグに興味をもっている人には必読というか、一気に読まされてしまうだろうと思います。 読んでいて始終感じたのは、やっぱり溝畑氏のやり方は間違っていたのではないだろうか、という問題というか、違和感です。 「物事」を成し遂…

『完全恋愛』牧 薩次,小学館文庫,2008,2011ーー2009年度「本格ミステリ大賞」受賞作

辻真先氏の謎解きミステリ。2009年度「本格ミステリ大賞」受賞作で、2009年「このミステリーがすごい!」第3位、2009年「本格ミステリ・ベスト10」第3位。 タイトルは「他者にその存在さえ知られない罪を/完全犯罪と呼ぶ/では/他者にその存在さえ知られない…

『職業としての小説家』村上春樹,スイッチ・パブリッシング,2015ーー小説と小説家にまつわる話

僕は村上春樹氏の小説を昔はたくさん読んでいましたが、いつしか手に取らなくなってしまいました。『中国行きのスロウ・ボート』『カンガルー日和』『回転木馬のデッド・ヒート』などの初期短編集なんかは、大学のころ何度も読んだものもあります。『羊をめ…

『13・67』陳浩基,天野健太郎訳,文藝春秋,2014/2017ーーどんでん返しが冴えわたる短編群

昨年の海外ミステリランキングの上位に挙げられた中国(香港)警察ミステリ。 ロー警部が関わる事件をもとにした6つの短編(というよりも中編)を2013年から1967年までさかのぼって収録されています。その6つの短編がそれぞれ謎解きミステリが濃く一つの短編…

『東の果て、夜へ』ビル・ビバリー,熊谷千寿訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2016,2017ーークライムミステリ版スタンドバイミー

デビュー作にして、英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールドダガー受賞、同最優秀新人賞ジョン・クリーシー・ダガー受賞、全英図書賞(年間最優秀犯罪小説部門)受賞、ロサンゼルスタイムズ文学賞(ミステリ部門)受賞などを受賞し、昨年のミステリランキングに…

『それまでの明日』原 尞,早川書房,2018ーー消えた依頼人を探す探偵

私立探偵・沢崎シリーズの長編5作目の14年ぶりの最新作。前作『愚か者死すべし』の内容は忘れてしまいました。調査中に引きこもりの少年と出会ったのは頭の片隅に残っているのですが。 11月のある日の夕方、渡辺探偵事務所に「紳士」が自分が消費者金融の支…

『カウント9』A・A・フェア, 宇野利泰訳,ハヤカワ・ミステリ,1958,1959ーーフーダニットよりもハウダニットで読者を引っ張る

クール&ラム・シリーズ全29作中18作目の作品。中期後半にあたります。 富豪家で探検家が開催したパーティで仏像と吹き矢が盗まれた。そのパーティではバーサが見張りを行っていたのだが。密室ともいえるところから、いったいどのようにして盗んだのか。また…

『湖の男』アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢 由実子訳,東京創元社,2004,2017――冷戦時代の悲劇は

エーレンデュル警部シリーズの第四作目の作品――ここで、ウィキペディアを見たら第六作目の作品とあるけれど、どちらが正しいのでしょうか。すでに15作もあるのでしたら、年2冊は翻訳・発行してほしいものです。やはり時代と合わせていなければ正当な評価はで…

『フロスト始末』R・D・ウィングフィールド, 芹澤 恵訳,創元推理文庫,2008,2017ーー凄腕の専門職役人はいつも面白悲しい

フロスト警部シリーズの最終巻です。これまでのシリーズと同様に楽しめました。 このシリーズってフロスト警部のキャラクターに強く寄っている思うのですが、フロストの魅力って、いったいなんでしょうねえ。日本の警察物にはあまり見られないんですよねえ。…

『性犯罪者の頭の中』鈴木伸元,幻冬舎新書,2014

著者はNHKのディレクターで、その番組取材をもとに書き起こした新書。正直言えば物足りないのですが、認知行動療法という性犯罪の対策が効果を上げている本書の報告を読む限り、「性犯罪は『ムラムラ』してではなく、『計画的』がほとんど」(47ページより)…

『泣き虫弱虫諸葛孔明 第伍部』酒見賢一,文藝春秋,2017ーー孟獲戦は俺TUEEE系の元祖かもしれない

酒見版・諸葛孔明の最終巻。益州南部の平定と北伐、そして孔明の死を記しています。とにかく面白いのですが、最初から比べるとちょっと真面目に語ってしまっています。 本書を読むまで、孔明が戦下手だったというのは気が付きませんでしたね。それまでは負け…

『“天才”を売る―心と市場をつかまえるマンガ編集者』堀田純司,KADOKAWA,2017

若手からベテランまで8名のマンガの編集者のインタビュー集。どのように編集者として働いているかを語っていますが、いずれの編集者に共通しているのが、各々のスタイルは異なるということ。それじれが弱みや強みがあるし、特徴も異なるのだから、同じ言葉で…

『名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方』鈴木康之、日経ビジネス文庫、2008

最近、文章についての本を少しずつ読んでいますが、その一つとして、古本屋で見かけたもので、まったく作者のことも知らなかったのですが、ほかの文章の書き方マニュアルと異なり、たくさんの広告・コピーを列挙することが特徴で、これが本書を読んでいると…