ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『幻獣ムベンベを追え』

幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)

幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)

本書は2003年に文庫化されたものだけど,親本は1988年にPHP研究所から出版されたもの。当時,『ミステリマガジン』のノンフィクション本の紹介コーナー(執筆者は小玉節夫氏でしたっけ?)で傑作と紹介されていて,ぼくは単行本で読んでいる。
これは,傑作と言い切れる数少ない作品。宮部みゆき氏が「買ってね,読んでね。……今の世の中には,絶対に,こういう本が必要なんです」と解説で書かれているけど,まったく,そのとおり。
早稲田大学探検部11人が,コンゴ奥地の湖に棲息するといわれている謎の怪獣・モケーレ・ムベンベを,発見しに行った冒険記。
集団の青春物語であること,作家高野秀行氏のデビュー作であること,1998年というバブル期ど真ん中に書かれていること,これらすべての意味をもっている。
14年後の文庫化による出版にあたって,各メンバーの近況が書かれているが,この冒険が各メンバーに与えた影響(影響がなかったこと)を読むと,目の奥から押し出されそうになってしまいます。単行本のまま,後日談を読んでいない方,必読です。
もし,あなたが,今の日本で生きにくいなあと緩やかな縛りを感じている人だとしたら(若者のほとんどが当てはまると思いますが),そのうちの10人に1人ぐらいは,その縛りをほどいてみたくなりますし,そういう生き方もアリなんだと,それでいいんだと,世界が少し広く感じるでしょう。