- 作者: 小鷹信光
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/11
- メディア: 単行本
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昨日までの日記であのようなことを書いたのは,本書を読んでいたからです。本書は,ハードボイルド小説の評論・翻訳の第一人者小鷹信光氏のハードボイルドについてのバイオグラフィといったものでしょうか。「ハードボイルド」という言葉が,欧米でどのように発生し定着していったか,またハメット・チャンドラーなどの翻訳を期に日本でどのように広まっていったかを豊富な文献を駆使して,記述したものです。読んでみると,なぜ著者はハードボイルドという言葉に取り憑かれたのか(そう,取り憑かれたという表現がふさわしい),不思議に感じてしまいます。と同時に,それだけが記述されていないことが不満ですね。
考えてみれば「ハードボイルド」という言葉の定義は難しいものです。ハードボイルド小説ともいうし,ハードボイルドな映画ともいうし,ハードボイルドの文体ともいうし,ハードボイルドな生き方ともいいます。「ハードボイルド」とはスタイルなんでしょう。だから,それぞれの一人ひとりのもつハードボイルドスタイルは異なり,考え込むわけです。そういう意味で「ロック」という言葉に似ていますね。
私が,初めて小鷹氏の文章に触れたのは,記憶に残る限りでは,『ミステリマガジン』の連載エッセイですね。タイトルはおそらく「ミステリ・オン・ザ・ロード」で,『血の収穫』の舞台ポイズンヴィルのモデルとなった鉱山で栄えた町ビュートを訪れるエピソード,または,『ウィチャリー家の女』の冒頭のサンタバーバラの海岸線の国道を車で疾走するシーンは,地理的条件を考えたら,必ずしも海岸線を走る必要はない,おそらくロス・マクは海岸線の綺麗かつ人工的な風景を描写するために無理にそのシーンに持ってきたのだろうというエッセイを覚えています。
あとは,いくつかの翻訳ミステリですね。また,テレビドラマ『探偵物語』の松田優作のアドリブ「日本のハードボイルドの夜明けは,いつくるんでしょうかね。コダカノブミツさん?」は何故行われたのかも書かれています。