ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『雷鳴の中でも』ジョン・ディクスン・カー,早川書房,1960/1979-12(○)

雷鳴の中でも (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 2-4)

雷鳴の中でも (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 2-4)

 謎解きミステリの巨匠,カーの晩年の作品。フェル博士もの。カバー紹介には,「本格派の巨匠の作家活動30年を記念する力作」とあります。なかなか趣向を凝らした作品でした。殺人の方法,裏のある人間関係,アマチュアの探偵の謎解きなど,以下のフェル博士の台詞に現れているように,なかなか複雑です。

「わしにとってはまったく正気の沙汰とは思えぬほど」とフェル博士は言い返した。「誰一人として本当のことを言ったものはおらんかった。不肖,このわしも含めてな」(351ページ)

 カーらしく意外性を狙ったあまりに普通になってしまい,少し白ける部分もありますが,そう書く気持ちが分かるよ,と微笑ましく感じます。正直言って,カーの作品の中では上位とは言い切れませんが,不可解な殺人方法としての謎の提示,複雑な人間関係,最後の少し長い推理の解説,大団円など謎解き小説の定石をきちんと踏んでおり,懐かしく感じます。

 カーといえば,15年ぐらい前の学生の時,ゲームセンターで遊んでいたら,中学生ぐらいの白人の子どもが,タイトルは分かりませんでしたが,カーのぺーバーバックを持っていたのを思い出します。「カーって今でも読まれているんだ」と驚きましたね。