ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ミステリ百科事典』文春文庫,間 羊太郎,文藝春秋,2005-11(○)

ミステリ百科事典 (文春文庫)

ミステリ百科事典 (文春文庫)

 このようなエッセイを書ける人ってどのような人なんでしょう? 驚異的な記憶力を持っているか,データベースマニアかどちらなんでしょう。老成しているんですかね。

 本書は,人体(眼,手,血,首),生物(猫,犬,虫,花),風物(雪,氷,クリスマス),事物(電話,時計,人形,蝋燭,手紙,郵便,遺書),別巻(宝石,写真,たばこ,自動車,飛行機,海,毒薬,衣服,ギャンブル,レジャー,野球),別巻2 妖怪学(吸血鬼,猫など)にまつわるミステリ小説を紹介したエッセイをまとめたものです。

 しかも,単なる紹介エッセイではなく,一つひとつのテーマに取り上げた小説の数も非常に多く,データベースとしても使用できます。また,この作者特有の奇妙な文体が面白い。

 ミステリーに出てくる指というと,その殆どが,三本指とか四本指,又は切り落とされた指,といった具合に,〈指の切断〉とか〈切断された指〉という使い方でしか出てこない。まずは〈指の足りない手〉の効用から。

 横溝正史の代表作といえば,何といっても『本陣殺人事件』だろう。この作品が,片岡千恵蔵主演で映画化されたときの題名は『三本指の男』であった。それ程,この作品に於ける三本指の男の出現は,一種異様なムードを盛りあげるのに効果をあげている。…(p52)

 これは,「指」のところの冒頭の文章。適切な引用ではないかも知れませんが,とりあえず目についたので。このような数珠繋ぎの形で,さまざまな作品が紹介されます。結構,トリックそのものを紹介されているのですが,本書に限っては,どういうわけかあまり気になりません。読んで楽し,調べて楽しの作品です。

 ちなみに冒頭に北村薫氏と宮部みゆき氏の本書の紹介対談が掲載されています。私はこれに惹かれて本書を購入しました。