ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

「待っている」レイモンド・チャンドラー,田口俊樹訳

 図書館で『ミステリマガジン』の2007年5月号を借りてきた。その前号の4月号の特集は,「愛しのレイモンド・チャンドラー」と題する『ロング・グッドバイ』を中心としたチャンドラー特集である。それは,とりあえず購入して,エッセイなどを一通り読んでいた。ところが,5月号で池上氏と関口氏が4月号に新訳された短編「待っている」について,旧訳と新訳の結末が異なっており驚いたと書いているではないか。「ええっ,どういうこと」とあわてて,4月号の「待っている」を読んだ。

 「待っている」は私が今まで読んだ短編のなかでもベスト級の短編である。何度か読み返したことがあるくらいである。旧訳を読んで,長さといい,キャラクターといい,結末の意外性といい,(『さらば,愛しき女よ』に似ているものの)素晴らしい作品だと思っていたのである。

 新訳であるが,それでもベスト級であることは変わらないと思った。むしろ,『さらば』には似ていないことになり,「待っている」だけで独立した傑作短編であるといえるのではないか。まいったなあとも思う。こういうこともあるのだとため息をついたのでした。