ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『奇妙な情熱にかられて―ミニチュア・境界線・贋物・蒐集』春日武彦,集英社新書,2005-12(○)

 本書は,誰にとっても多かれ少なかれ「なぜか気にかかるもの,心に語りかけてくるもの」となりそうな,ミニチュア,境界線,そっくりなもの,蒐集という営みについて考えてみることで,リアルなものとは何かを求めたものである。

 替え玉妄想においてわたしがいつも驚くのは,患者は「変装」「整形手術」「催眠術」「一卵性双生児」「他人の空似」などという言葉をごく当たり前のこととして使う点である。(中略)…だが,たんに言葉のうえでは確かに変装とか整形手術とか言えばとりあえず辻褄は合うだろう。リアリティーはなくとも,言葉による詐術は成立する。(152〜153ページより)

 いくぶん大仰にいえば,こういった蒐集の醍醐味とは人間の発想や思考の「癖」を見透かす楽しさであり,また世界の成り立ちとコレクションが相似関係にあるのではないかと妄想する喜びにある。いったいコレクションとは物に託された世界観にほかならない。(中略)…たとえばプライスガイドを片手にベースボールカードを集める人々にとっては世界とはひとつの秩序であり,しかしその秩序には必然性が欠けているといった認識があるのではないか。(183〜184ページより)

 うーん,何といったらよいのか,ざらりと心騒ぎますね。何か自分でも説明できない「癖」はどこから来ているのか,気づかせてくれます。わたしでしたら,何で「変」といわれるミステリが好きなのかですね。江戸川乱歩横溝正史のミステリが,なぜ現代でも一部の好事家に熱狂的に読まれているのか。そこに,その人だけが感じ取れる「リアリティ」があり,欠けている心のどこかを充足するものだからなのでしょう。それが,どこから来て,どこにあり,どこへ行くのか,を説明するのが文学なんでしょうかね。