ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『一本の鉛』佐野洋,角川文庫,1959(○)

一本の鉛 (角川文庫)

一本の鉛 (角川文庫)

 昭和34年に発表された佐野洋氏の傑作初期長編。今回読んだのは,平成8年に「リバイバルコレクション」の第1回配本されたもの。ちなみに他に配本されたものは,『乱れからくり』『六本木心中』『針の誘い』『キリオン・スレイの生活と推理』で新本格以前の謎解きミステリの傑作といえるもの。本書もそのような位置づけだったのだろう。

 舞台は,ホステスやモデルなど女性ばかりが住民のアパート。初雪のあった早朝,その一室でホステスのあかねが絞殺された。鍵が掛けられた部屋を開けたところ,あかねの死体が発見され,その側には常連客の大学生の太田垣が呆然として立っていた。警察は太田垣を逮捕したが,バーのマダム杏子は太田垣が犯人には思えなかった。杏子は愛人の弁護士である海老沢に相談し,新聞記者と共に捜査を始めた…。

 詳しい内容は語ることはできないが,密室があったり,探偵役が入れ替わったり,叙述トリックや最後の意外性もあり,ダイナミックな内容ではないが盛りだくさんの内容で騙されること請け合いの佳品である。中途のサスペンスなど,アイリッシュ風なところもある。