マンダリンの囁き (ハヤカワ・ポケット・ミステリ―ウェクスフォード警部シリーズ (1449))
- 作者: ルース・レンデル,吉野美恵子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1985/04/30
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログを見る
思えば次々と話題作を書き、かなりの部数が売れたであろうルース・レンデルでさえも、もう忘れられているような気がします。書店どころか古本屋でさえも見かけません。かく言う私でも数年ぶり。実力的には、ジェイムズよりも上だと思うんですけど。代表作だけでも読み直してみたいものです。
本書は、レンデル22作目の長編小説。ウェクスフォード警部シリーズ第12作目。1984年度の英国推理作家協会(CWA)賞候補作だったそうです。まあ、それだけの作品ではあります。
ウェクスフォード警部は、ロンドン警視庁が組織する訪中団の一員として、一人で中国を2週間旅行をした。万里の長城、紫禁城、毛沢東生地、江くだりと観光を楽しんだ。しかし、中国人の飛び込み自殺があったり、纏足の老女を至るところで幻覚のように見たり、暑い気候で疲れる旅であった。10月にその旅行の一人であるアデラ・ナイトンが、自宅で後頭部から至近距離で銃で撃たれて殺された。夫のアダムはアデラと仲が良くなく怪しいが彼にはアリバイがあった。彼の過去とアリバイを調べる警察であったが、アダムは自分が殺したと遺書を残して自殺してしまった。事件は解決したかに思われたが…。
冒頭から、休暇をとったウェクスフォード警部夫妻の中国旅行をしており、このあたりのくだりは、異国に旅行にきたヨーロッパの人々という感じが強く、エジプトを旅行するポアロを思わせます。でも、1983年の時点では中国旅行は珍しかったのではないのでしょうか。行けたとしても、そんなに自由に動けなかったような気がします。そのような雰囲気が伝わってきます。例えば、中国へ向かう飛行機の中のくだり――「乗客たち――白人は彼一人だった――青い木綿服の若い男女や、軍人にふさわしいカーキ色の制服姿ながら、金色の縁取りのある黒い絹の扇をつかっていた挑戦の将官たち」(p18)
ストーリー展開もクリスティを読んでいるかのよう。ウェクスフォード警部もののためか、きわめてオーソドックスな英国ミステリでした。ラストでは二転三転あり、少しオオッと驚きます。結構よくある展開なんですけど、描写がうまいので、引っかかってしまいました。