ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『鉄の枷』ミネット・ウォルターズ、成川裕子訳、東京創元社、1994→2002(○+)

鉄の枷 (創元推理文庫)

鉄の枷 (創元推理文庫)

 おおっ、アマゾンでカバーが表示されてる! 古い海外ミステリ作品ばかり読んでいるいると、カバーが表示されないわ、アクセスは少ないわ…。本当に海外ミステリを読んでいる者は少数派で悲しいものです。けど、ここ20年以内にミステリを読み始めた人が、国内ミステリを読むのはわかるんですよねえ。でも、それ以前の海外ミステリは、めちゃめちゃ面白かったんですよねえ。その時、出会った人にとっては、魅力的で離れがたいものなんです。

 本作は、英国の女流サスペンス作家ミネット・ウォルターズの第3作。英国推理作家協会ゴールドダカー賞受賞作であります。無駄な描写がない、ジワジワしたサスペンスがあふれた佳品です。

 資産家の老婦人マチルダ・ギレスピーが、スコウルズ・ブライドル(鉄製の轡〈くつわ〉。昔、英国で口やかましい女に罰として頭にかぶせた拘束具で口に入れて舌を押さえつける金属のかませもの)をかぶったまま、少量の睡眠薬をウイスキーにまぜて飲んだ後、ナイフによる手首の傷から出た大量の出血によって、浴室で死んでいた。この奇妙な死は、自殺か、殺人か判断できなかった…。

 一方、マチルダの主治医セアラ・ブレイクニーは夫で売れない画家のジャックの浮気を疑い、証拠が出たところで離婚を切り出し、ジャックは家を出て行った。

 明くる日、マチルダの弁護士が、マチルダの死の2日前に遺言の書き換えを行い、その公表のため、マチルダの娘ジョアンナ・ラサルズ、マチルダの孫でジョアンナの娘のルースを集めたのである。そのビデオの遺言の内容は、マチルダの奇妙な生い立ちと血縁者である娘には遺産を残さず、赤の他人のセアラに譲るというものだった。一体なぜ、セアラなのか、また誰がマチルダを殺したのか。ある資産家の悲劇をサスペンスフルに描く。

 冒頭の奇妙な死、「血」が織りなす人生、誰もが矛盾をもっている人物描写など、いかにも英国のミステリらしくも、どこか軽い感じももたせてくれます。決してハッピーエンドではないところなど、私の好みですね。