- 作者: ローレンスブロック,阿部里美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/06/20
- メディア: 文庫
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■少し軽くてなつかしい根なし草ヒーローの物語
なかなか愉しい作品でした。こういう作品っていいよね、って素直にいえる。こういう軽みをもつものがもっと読みたいものです。
本書は、ローレンス・ブロックのブレイクする前、1931年生まれなので35歳のとき?の作品。マット・スカダーものの第1作『過去からの弔鐘』が1976年、泥棒バーニィものの第1作『泥棒は選べない』が1977年の発表ですので、評価されていない時期といってよいでしょう。でも、こんな作品を書いているのですから、マニアックな評価を受けないまでも、商業作家として、職業作家として生活していけるだけの販売実績はあったのでしょう。
主人公エヴァン・タナーはトルコに入国したところ、警察に理由も告げられず逮捕され留置所の独房に入れられた。9日後釈放されアメリカに逆送された。18歳の頃朝鮮戦争で縦断の破片を頭に受けたショックで睡眠能力を失った。それ以来、一睡もしていない。数多くの言語を習得し、さまざまな団体に属し情報を得て、例えば学生の論文の代筆をしたりして生活をしている。
あるとき、友人の結構式で出会ったアルメニア人の女ともだちと出会った。彼女の祖母にアルメニアについて聞いたところ、彼女の父親は、トルコとギリシアの交戦時に、アルメニア人と友好関係にあるギリシアの資金援助のために町中の金貨を集めたとのことだった。しかし、そこがトルコ軍に陥落されたため、その約300万ドル相当の金貨を床下に隠してコンクリートで固めた。アルメニア人は虐殺され、彼女も命からがらニューヨークに逃げてきたという話をした。その300万ドルの金貨が発見されたというニュースは聞いたことがない。そこで早速タナーはトルコに飛んだのだが、警察につかまったのだった。
その後、何とかして金貨を探すべく、トルコに入国を図るのだが、さまざまな妨害が起きて…。ひょうひょうと口先三寸とバテることがない行動力で目的を目指すのだが、どこか誤解が誤解を呼んで、いろんなところから追いかけ回される。
本書のもっとも近いテイストは、御厨さと美の『裂けた旅券(パスポート)』ですね。そういえば、『裂けた旅券』もその時代より少し後ですね。タナーや豪介のような根無し草にリアリティがあった時代なんでしょうね。このシリーズもっと続けて翻訳してほしいなあ(訳者あとがきに好評なら出版するかもと書かれてあった)。
ちなみに、スカダーものの初期3部作『過去からの弔鐘』『冬を怖れた女』『一ドル銀貨の遺言』は、まったく光がなく、冥くて、それでいながら本格テイストがきちんとかかっていて、めっちゃ好きなんですよねえ。また、泥棒バーニィシリーズは何冊か読んで、現在また読みたいと古本屋やジュンク堂で探してみたんだけど、まったく見つからない。ちょっと前ならたくさん見かけたのにもかかわらず。もう、ブロックも過去の作家なのかな?