ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『アメリカ下層教育現場』林壮一、光文社、2008(○+)

アメリカ下層教育現場 (光文社新書)

アメリカ下層教育現場 (光文社新書)

■アメリカの下層の透明な絶望を描く

 タイトル通り、アメリカの田舎の下層の教育現場のルポルタージュ。アメリカでスポーツの取材をしていたノンフィクションライターが大学時代の恩師に「チャータースクール」という学力の低い子どもたちが集まる高校の「日本文化」という科目の教師の依頼をしてきたことから始まる。

 授業を始めるとUNOを始めたり、居眠りをしたり、授業をふけてしまったり、とにかく勉強をする気がないと思われる無気力が子どもたちがいて、まったく授業にならなかった(まるで『僕の小規模な失敗』の工業高校のように)。そこで、著者は、彼らを自分の高校時代と重ね合わせて、小学校のようなカリキュラムを組んで、生きる力を育もうとするのだが…。

 このチャータースクールをやめた後も、地元の小学校の生徒向けのボランティアなどに参加して、いかにこの教育格差の問題に取り組んでいるか、その一部が理解できるようになっています。

 このルポの初出は『新潮45』に掲載されたとき、私は読んでいるんですよね。林壮一って、なんか覚えがあるな、と読んでいくと、『ナンバー』に野球やボクシングのルポを書いているライターだと気がつきました。まあ、他にでも書いているかと思いますが。

 それが、教育問題、格差問題などを生活レベルできちんと書かれていて、メチャメチャ面白くて、依頼をしてみたいなあと思ったのですが、どうせ新潮社から出版されるのだろうと諦めていたら、光文社から出版されて驚きました。

 レインシャドウ・コミュニティ・チャーター・ハイスクールで、この子たちが高校の卒業証書を手にしたとしても、日本以上に学歴が問われる合衆国社会を生き抜いていけるようには、どうしても思えない。残念ながら高校卒業の学歴では、よほどの例外がない限りブルーカラーやアルバイトのような仕事にしか就けない。アメリカ合衆国とは、そういう国である。(68頁より)

 本書の魅力は、さまざまな角度から問題点を挙げているところです。無気力な教育現場の問題、主に財力による教育格差の問題、それが親から子へ輪廻のように引き継がれ、なかなか抜け出せないという格差の問題を挙げつつ、ボランティアで地域の人間を学校に出入りさせることによって風通しの良い学校にするなどの解決策など提示しています。これらは決して対岸の火事ではなく、日本とまったく同じ状況ですからね。今を知るヒントになるかと思います。