- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2004/06/10
- メディア: 文庫
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主人公の博物館専門技師の「僕」は、博物館の設立で呼ばれた。依頼者は100歳を超える「愚図は嫌い」と話す口の悪い気むずかしい老婆だった。そこは山に囲まれた盆地で駅と中央広場が起点と終点とした大通りがあるだけ村(なんとなくライツヴィルを思わせる)であった。
老婆の屋敷の収蔵庫には、糸巻き車、金歯、絵筆、登山靴など雑多な物があり、それらは村人の形見で、老婆が11歳のときから村人が死ぬたびにその人にまつわる品を盗んで手に入れたという。それらを展示、保存する博物館をつくってほしいという依頼だった。僕は、また、村人が死ぬたびに同じように盗んでくるよう命じられ、葬式や遺体が発見されたところへ行って収集したり、形見一つ一つについて老婆から聞き取り調査をしたのである…。
なんとなく、日本なのか、外国なのか、場所がよく分からない。私にエラリイ・クリーンの中期から後期のミステリ小説の舞台となった、アメリカの田舎町ライツヴィルを思われるように。『Dr.スランプ』のペンギン村のようでもある。そんなところで、依頼人たちに村のなかに閉じこめられたかのように博物館の開設のためにたんたんと作業を進める、経験豊かな、どこか寂しさや誠実さをもっている僕。どこかプライドの高い老婆。老婆に従順なまるでメイドのような少女の娘。背景のような庭師。爆弾テロ事件や女の乳首を切り取る死体が現れる連続殺人事件。
奇妙な冥い情熱を感じさせてくれる不思議な小説であります。