ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『幽霊』エド・マクベイン、井上一夫訳、早川書房、1980→1990(○)

幽霊 (ハヤカワ・ミステリ文庫―87分署シリーズ)

幽霊 (ハヤカワ・ミステリ文庫―87分署シリーズ)

 87分署シリーズ全53作中第32作目。いつものリアリスティックなストーリー展開に加えてクリスマスに幽霊が出てくる水準作。

 あと4日でクリスマスの3インチの雪が降り積もる午後7時―。路上で血を流している白人女性マリアン・エクスポジートは胸にひと突き刺されて死んでいた。さらに、その30分後、その前のアパートの3階の一室で白人男性が殺されていると通報があった。その男は、胸と喉と手と腕と耳の一部など19の刺し傷を受けて殺されていた。彼クレイグは作家で『死に至る闇』という幽霊が出てくる小説で300万部を売るベストセラーを書いていた。クレイグは22歳の女友達のヒラリーといっしょに暮らしていたため、娘と不和にだった。一方ヒラリーは、泥棒ではなく若い男の霊が何かを探しているというのである。

 キャレラとホースは、アパートでクレイグを殺した後、偶然行きがかりでマリアンを殺したのではないかと捜査を始めた。その日の5時頃クレイグの元にダニエル・コパーヘッドという『闇』を担当した編集者が訪問していたとガードマンから情報を得た。本人に問いつめたところ、その時間は同僚の一人の既婚女性といっしょにいた、またクレイグは『闇』の続編の執筆が進んでいなかったという。

 そんななか、ヒラリーからこの事件には水が関係している、説明したいから会ってくれないかと電話があり、キャレラは向かったが、いたのはヒラリーに似ている双子の姉がいたのである…。妹によると、姉のデニスは、自分からクレイグを寝取ろうとしていたというのである。改めてヒラリーに聞くと、何かが取り憑いたように全身をふるわせ、キャレラの下唇に歯を押しつけ、幽霊じみた声で「誰かが泳いでいる…テープが…おぼれている」と意味が分からないことを突然話した。

 キャレラとホースは、捜査を改めて、アパートの住民をしらみつぶしにガサ入れを行った…。やがて、マリアンは夫と不仲であることが分かるのだが…。

 というように、ちょっとした異色作ですが、「幽霊」について、合理的解説をしなかったことが残念でした。ミステリならそれが欲しかったところですね。しかし、複数の殺人事件が、目的をもったなされたものなのか、偶然なのか、どの殺人が原因なのか、謎として提示いるところなど、うまく出来ていますね。