hoshi-itsu’s 本にまつわるblog

「ほしいつ」です。海外ミステリが中心のブログです。下書きがなくなってしまったのが悲しい……。

『魔性の殺人』ローレンス・サンダーズ、中上守訳、早川書房、1973→1982

 初のローレンス・サンダーズですが、こんなにリーダビリティが高い作家だとは思いませんでした。較べるのはフェアではありませんが、ディーバーよりも高いのではないでしょうか。とにかく内容は盛りだくさんで、警察小説、しかも、プロファイリングという言葉がいつできたのか知りませんが、捜査の中心のディレイニー署長は、犯行現場の跡から、犯人像を明確に推理していきます。

 また、休職中の捜査であり、私立探偵小説的な要素もあり、ニューヨーク中の登山用品を扱う店を縦断的に捜査するなどリアルな警察小説的な要素もあり、その過程で引退した老人に生きがいを与え強力してもらうなど、ハードボイルド的な要素もあり、そして、サイコサスペンス的な要素もあり、もうお腹いっぱいという感じです。☆☆☆☆★の大傑作です。

魔性の殺人〈上・下〉 (1982年) (ハヤカワ文庫―NV)

魔性の殺人〈上・下〉 (1982年) (ハヤカワ文庫―NV)

 ニューヨークの通りで市会議員のフランク・ロンバートという男が通り魔に殺された。使われた凶器が判明しない。また、その一カ月後、その場所から遠くないところで更に1人男が同じ凶器で殺された。251分署の署長ディレイニーは、市警本部内の権力闘争のため現場を離れたが、周囲の勧めもあり、警察を休職し、単独の捜査を始める。死体の姿勢、傷跡などから登山で使用するアイス・アックスではないか、そしてロンバートを殺すことを目的とした犯人を捜すのだが、ディレイニーは「ロンバートを殺したのではなく、誰かを殺したのだ。誰でもかまわないのさ」と通り魔であると推理する。

 一方、連続通り魔事件の犯人は、出版社の役員のダニエル・フランク。彼は恋人のシーモアに語る。殺人は、宗教的なものだった。神の意志だった。狂っていたのかもしれない。完全に統一された本来の自己が意識されていた。そして同時に殺すことを決めたときに彼を愛してしまったのだ。犠牲者を選んだときに力を感じ、犠牲者に選ばれた彼に愛を抱き、やがて精神的高揚へと導かれるというのだ。人を殺し、実際に経験すれば、新しい世界の混沌から一つの意味を引き出し、論理を与え、知ることができる。神が存在するかということを。人を殺せば、人と人の溝は消滅し、境界線は消え、被害者と一体になれる。殺人行為は愛の、究極的な愛の行為だ。それこそ求めているものなのだ。

 ディレイニーは、事件のことを考え抜き、容疑者を「たぶん、男で白人」「長身、たぶん六フィート以上」など肉体面、「冷静にして果断」「未知の動機により行動」など心理面について推理していく。