ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『“文学少女”と死にたがりの道化』野村美月、エンターブレイン、2006

 今年はライトノベルを有名どころから無名どころまで読み込むつもりなんですが、本シリーズはその第1弾。『このライトノベルがすごい』でも一位になったからですが、以前から気になるシリーズではあったものの、元ネタを読んでから手を出すべかなあ、とのんびりしていたら、完結しちまったということで、まあいいや、『人間失格』ぐらいは昔読んで内容知ってるから、ということで。

 高校3年生の天野遠子(とおこ)先輩は文芸部の部長で物語を食べる文字通りの妖怪「文学少女」。2年生の井上心葉(このは)は元作家で傷ついた普通の男子高校生で日々遠子先輩の要望で物語を書いている。

 そんな2人しか所属していない文芸部に、「どうかあたしの恋を叶えてください!」と1年生の竹田千愛(ちあ)が依頼にやってきた。しかたなく心葉は、千愛の片思いの先輩へのラブレターを代筆することになったのだが、一日だけと思いきや、毎日書くようにお願いされてしまった。しかし、千愛の態度が次第におかしくなって…。

 この後、太宰治の『人間失格』をモチーフにさまざまな過去が浮かび上がっていくという物語で、依頼人がある意図を隠して行動することによるなど、ちょっとしたハードボイルド小説の趣もあり、☆☆☆☆です。しかし、短くてすぐ読めるこの失踪感はたまらないですねえ。

 追記なんですけど、私はミステリ読みとして、本作品を非常に評価しています。ロス・マクや法月倫太郎のダイジェスト版のような感じもあります。ライトノベル特有のお約束がうざいと感じられる方もいるかと思いますが、悲劇好きにはたまらない作品です。