ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『浦和レッズ敗戦記』小斎秀樹、文藝春秋、2009

 本書と『都筑道夫 ポケミス全解説』を店頭買い。『都筑…』は「ぺえぱあないふ」が付いているというところに惹かれました。やはり僕は、都筑さんと若島先生の書評が好きですねえ。何といったらよいか、お得感がある感じがします。ミステリで文学性が高いことを読み応えがあると高評価する人、また自らの感情を表現する人が多くいますが、「そんなものくそくらえ!」という気分になります。まあ、自分には合わないと判断できるので、本の紹介の役割は果たしているのでしょうが。

 あと、本筋ではないのですが、本書で驚いたのが、版元が文藝春秋社だったこと。このようなサッカーやレッズ関連本は雑誌をもっているスポーツ系出版社が発行するものとしていたのですが、文藝春秋もこのようなスキマ的なテーマでも発行がGOになったということでしょうか。

 というわけで、昨年の浦和レッズの敗戦は原因はいったい何だったのか、自分の推測は間違っていないのかを確かめるためのノンフィクション。このようなスポーツの1シーズンを淡々と旅をしているかのように記したものの傑作としてデヴィッド・ハルバースタムの『男たちの大リーグ』がありますが、素材はそれだけのものがあったのになあ、と惜しまれます。

 『男たちの大リーグ』は優勝するまでの物語で詩的でしたが、チームの瓦解という誰にも避けることができない現象を同じように詩的にも書けたように思うのです。まあ、これは著者の本意ではないでしょうが…。

 著者は、その原因はどこにあるのか、自分で分析することはせずに、選手などのコメント・インタビューを通して、一年間チームがどのような状態だったのか、描写します。もちろん、そのセレクト自体が著者の分析の結果ではありますが、できるだけニュートラルな立ち位置にいたいという意思が感じられます。意外と、各選手が闘莉王の攻撃参加に好意的でした(まあ腹の内はわかりませんが…)。本書は、それでも傑作になるところを惜しかったなあと☆☆☆★というところです。

 やはり、エンゲルスがきちんと「監督」をできなかった、もしくはその能力がなかったということに尽きるのではないでしょうか。監督は、分析家であり、批評家であり、表現者であり、管理者です。正直僕は、前3者のことについてはよくわからないのですが、彼は管理者として失格だったのではないかと、たぶん思うんです。

 それは、フィンケのインタビューを読むと強烈に管理者としての意思、管理者として孤独を引き受ける意思を感じるからです。ですので、今シーズン、リーグとナビスコの制覇をやりとげるでしょう、たぶん。

浦和レッズ 敗戦記

浦和レッズ 敗戦記