ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方』山岸俊男、中央公論新社、1999

 10年前の発行で少し古い新書だけど内容は面白い。タイトルでソンをしている。「安心社会」も「信頼社会」もワードからだけだと、その意味をきちんと把握できない。だから説教をしている内容じゃないかと勘違いしてしまう。

 社会心理学的な分析を駆使した日本における人間関係論みたいなもので、みな「安心」をして生活していたのだけど、経済的な不況を代表とする世間の変化により、その「安心」は喪われてしまった。そのために、不信社会になってしまったけど、それでは社会的な利益を得ることができない。むしろ「信頼」してしまったほうがよい。それにはどうしたらよいか、が書かれている。

 例えば、教育に対する投資の結果として得られる「人的資本」の獲得を促進したり、人間関係や経済関係を効率的にするためのものを「関係資本」と呼んだり、相手の行動によって自分が危険にさらされてしまう状態のことを「社会的不確実性が存在している状態」と呼び、社会的不確実性が全く存在しない状態のことを「信頼」が成立している状態と呼んだりして、他にもお互いが協力し合えばみなが利益を得ることができるのに、それぞれの人間が自分の利益だけを考えて行動すると、誰もが不利益をこうむってしまう状態である「社会的ジレンマ」を中心にそれらを説明する。

 自分の感想ですと、前半の人間関係論を実験で実証するところが興味深く、むしろ後半の今後どうすべきかという主張は蛇足な感じがしますが、とにかく内容が濃くて要約しようとすると全てのページを紹介しなくてはならないほど。☆☆☆☆というところ。