ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ』山田 昌弘、岩波書店、2007

 家族社会学の第一人者の山田先生の少子社会論。発行は2007年ですが、内容は古びておりません。なぜならば、政府や行政など国は、まったく少子社会対策を立てていないからです。

 少子社会を考えるとき、どうしても現れるのが、世代論。とくに団塊世代団塊ジュニア真性団塊ジュニア世代との考え方の違いでしょう。

 私は、経済的意味、情緒的意味の双方を含める形で、家族を、「自分を心配してくれる存在」かつ「自分を必要としてくれる存在」と言い換えて使っている。(50ページ)

 結婚相手の条件として以下を挙げています。

 ここで、二つの条件が重要になってくる。
  (1)お互い結婚したいと思う相手に出会うこと
  (2)子どもを育てるのに十分な経済力があること
 そして、この「あたりまえ」の事実こそが、少子化の議論において、ほとんど触れられてこなかったのである。
 なぜ、触れられなかったか。それは(結婚相手としての)魅力や(子どもを育てていくための)経済力は、みな平等に備わっているわけではない。つまり、格差があるからである。そして、官公庁やマスコミは、その事実に触れることを極度に嫌がってきた。なぜなら、平等を建前とする近代社会においては、政府や社会は、格差が存在することを認めたくないからである。(56〜57ページより)

 ここで、もう一度、結婚、子育ての経済的条件に立ち戻ってみよう。
 「自分と配偶者二人で将来稼ぎ出せると思われる所得水準の将来見通し」が「結婚生活、子育てには、これだけの水準を求めたい」という希望を上回れば、結婚、出産は促進される。逆ならば、結婚、出産は抑制される。(149ページより)

 「格差が存在することを認めたくないからである」というのは、そういうものなんですかね。結婚・子育てには経済力は重要です。だから少子化を防ぐには、結局、若年者に金を配分しなくては難しいでしょう。というのは、この専門化している社会においては、経済力のある人間になるためには、大学などの学歴が必要であり、その後就職してからも、資格取得などのため、さらに勉強しなくてはなりません。しかし、それには学費や生活費などの資金が必要です。資金(と情報)がない者は専門性をもつことができない。だから、専門性を得るための制度的バックアップが必要なんです。

 子どもを育てるための、社会的バックアップも必要になるでしょう。介護のように社会的な支援が。経済的・雇用的に不安定な世代にとっては、子どもを育てるのに不安と負担が多すぎて、産みたいと思いません。介護などは社会的マネジメントでバックアップしているのに、子育てもなんでマネジメントしようとしないんですかね。おそらく旧来の家族制度が崩れるのが怖いのでしょうか。もうすでに旧来の家族なんてものは、半分ぐらいは消滅しているのに現実をみていないのでしょう。

 そのための、国の資金の総量が足りないということでしょう。税金から出せばいいんですけど、高齢者に出せても、子育てや就労支援などで若年世代には出したくないらしい。いや、実際は高齢者にも十分には出していないというんでしょうけど、若年世代よりはバックアップを受けていますよね。それは、主な有権者が高齢者ですから、しょうがないといえばしょうがいないですけど。

 いま「医療崩壊」とかで騒がれていますけど、もうすでに旧来の日本の医療は崩壊しているんですよね。自由にアクセスできなくなったり、最低限の医療すら受けることができなくなるようになる。いろいろな医療系ブログを読むとわかります。これは医療費をケチっているから(それだけが原因ではないですけど)。それで今後どんどん団塊世代が75歳以上の高齢者になって数が増加して、がんや糖尿病など医療費がかかる病人が増えて、それに伴って医療費も膨大になる。これを防止するには、医療を制限するしかない。病気を予防なんて厚労省は画策していますが、予防したところで医療費が減るわけではないでしょう。それは厚労省自体もわかっていることで。

 昔の藤子・F・不二雄先生の短編で、75歳以上の高齢者に対して、食料的・医療的な支援を行わない制度になった社会を描いた作品がありましたが、まあそうするしかないでしょう。ちなみにその短編では、藤本先生と我孫子先生をモデルにしたらしき二人が主人公でつまり自分たちなんですが、じつに穏やかな表情をしているんですよ。来るべき日が来たみたいな。読者は、穏やかな恐怖を感じるのですが。

 若者世代は、もうそれらの穏やかな恐怖のなかに生きていることが分かっている。年金もないだろうし。しかし、団塊世代を代表とする高齢者たちは、若者世代がそのように感じていることを理解していない。高齢者たちは、若者を虐待しているようなもんです。それを理解してほしいんですけどね。そのうち、復讐されますよ、呪われますよ、高齢者は若者世代たちに。

少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ (岩波新書)

少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ (岩波新書)