ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『タンゴステップ』 ヘニング・マンケル、柳沢由美子訳、東京創元社、2002→2008

 評判がよかったにもかかわらず何故か手を出していなかったヘニング・マンケル。警察小説のシリーズがあるのは知っていたものの、ベスト10に入るほどではなかったためなんですけど。本作は、スエーデンを舞台にしたハードボイルド警察小説。

 37歳の警察官のステファン・リンドマンは、医師に舌がんに罹患しているとの診断を受けた。そんなとき、かつでの上司で引退した元警官のヘルベルト・モリーンが、残虐に傷つけられた殺人事件の被害者として、新聞で報道された記事を読んだのである。

 元上司のヘルベルトは、人里離れた深い森の中で殺されたらしかった。ステファンは、ヘルベルトと一緒に働いていた頃、ヘルベルトが理由は分からないが、常に何かにおびえていたことを思い出した。ヘルベルトは誰に殺されたのか? ステファンは1カ月休暇をとり調査をすることにした。

 ステファンは、まず殺人事件が起きた地元のウステルスンド署のジョゼッペ・ラーソンに連絡をとった。ジョゼッペによると、ヘルベルトは動物の鞭で全身をむち打ちされたうえのでの致死で、裸で森の入口に放置されており、周到に計画された報復殺人ではないかとのことだった。

 殺人現場のヘルベルトの家のベッドには、血まみれの等身大の人形が転がっていた。地面の上の足跡から、何者かがヘルベルトを引きずり回して、タンゴを踊らせたように見えた。いったい誰が、なぜ、そんなことをしたのか? ステファンは、ヘルベルトの過去を探っていくのだが…。

 というわけですが、今まで読んでいなかったのが悔やまれるほどの作品でした。本作は、ノンシリーズの警官が主人公の警察小説というよりは、休暇中に捜査するもので、いたずらにアクションを求めず、対話でストーリーを進めていますので、一種のハードボイルドに近いものとなっています。文体も派手ではありません。

 訳者あとがきによりますと、ヨーロッパでベストセラーになっているらしく、物語のトーンは暗いものの、随所で主人公がストーリーを整理していますので、非常に読みやすいのもいいですね。主人公の造形、ストーリーの運び、意外な犯人、やるせない結末など素晴らしく、☆☆☆☆です。でも、「タンゴステップ」の謎の提案は魅力的だったのに、その謎解きは当たり前でちょっとガッカリ。

 読みながら、グーグル・マップで、本作の舞台となったスエーデンの田舎町を検索してしまいました。スウェーデンの田舎町のサイレント状態で、澄みながらも、どんよりした空気が伝わってきます。

タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)

タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)

タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫)

タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫)