ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『誰もわたしを愛さない』 樋口有介、東京創元社、1997→2007

 元刑事のフリーライター柚木草平シリーズ第4作目の作品。このシリーズは、主人公柚木草平の軽い性格、バランスの良い正義感、別れた女房と娘とのちょっと複雑な関係など、エンタメ主人公として、ある意味ストライクゾーンにうまくはまっているところが魅力的となっています。こういうキャラは、現代物としてはなかなか難しいものです。また本シリーズは、主人公の柚木草平が、「ビジネスに徹している」ところがいいですね。

 それに加えて、謎解きミステリとしても、うまくこしらえられていて、とびきり複雑でもなく、新味もあるわけではないですけれど、ちょっと意外な犯人を創造しており、リアリティを損なっておりません。とびきり名作ではありませんが、損をすることのないシリーズです。創元推理文庫での再刊は、それだけ作品に力があるということを示しています。

 さて、本書ですが、ラブホテルで殺された女子高校生について、ルポの執筆の依頼を受けた柚木草平は、元刑事のコネによる警察の情報、殺された現場の状況、殺された女子高生の友人関係などを調査しているうちに、当初行きずりの犯行と思われていたものが、計画的なものと思われていくというストーリー。真面目と思われていた学生がそうではなかったり、ストリートにたむろっている高校生が将来を考えていたり、ミステリの文法に則っています。とくに本作は、台詞が軽妙でテンポがよく、ツルツル読むことができます。☆☆☆★です。

 樋口さんの作品は、ミステリとしての評価は高くないので、書評などでもあまり取りあげられないし、もし取りあげられたとしても、前述のとおり、立っているキャラ、テンポのよいニヤニヤできる会話、軽快なストーリーなど、魅力を述べるとき、どの作品にも当てはまるものなので、どれも同じに感じてしまう。それが、あとがきにもあるように、編集者がオビに犯人を書いてしまうことにつながってるのでしょう。「犯人を知っていても面白い」ってね。

 それならば、もっとストーリーを複雑にするか、あるいは重いものにするか、してしまえば良いのではないかと考えるのですが、それには、ある種のリアリティやリーダビリティを捨てることになります。それを危惧しているのでしょうか。

誰もわたしを愛さない (創元推理文庫)

誰もわたしを愛さない (創元推理文庫)