ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『新聞記者 夏目漱石』 牧村健一郎、平凡社、2005

 本書の発行当時、さまざまな書評で好意的に取りあげられていたので、わたしは書名だけ記憶していて、書店や図書館の文芸評論のコーナーで軽く探してみたものの見つけることができなかったものです。先日、新書の棚で偶然見かけたときは、単行本だと思っていたので、まさか新書だったとは思わずオドロキました。

 さて、本書は、朝日新聞社社員としての夏目漱石がどのような役割を果たしていたか、作家ではなく編集者として何をしていたかを具体的に解説したもの。

 それは関川夏生・谷口ジローの『坊ちゃんの時代』などでも描写されていません。『坊ちゃんの時代』は『坊ちゃん』を執筆するまでだから、描写する必要はなかったのかもしれません。朝日新聞社入社にあたっての細かな契約書を結んだというのを、『坊っちゃんの時代』に収載されていた関川夏生氏のエッセイにありましたから、あえて描写しなかったのでしょう。

 また、編集者としての漱石に興味があったのは、小林信彦氏が『小説世界のロビンソン』か何かの文学評論で、高橋源一郎氏が『文学がこんなにわかっていいのかしら?』か何かの著作で、夏目漱石の小説が現在でも読むに耐えうるのは、ほとんどが新聞に連載されたものだからだ、と同じように記していたのが印象的だったからです。

 もう一つ、正力松太郎を描いた佐野眞一氏の『巨怪伝――正力松太郎と影武者たちの一世紀』で、明治期の新聞事情はさまざまな新聞が群雄割拠していることが説明されており、それまでの明治期の新聞は政治臭が強く真面目だったのですが、正力は新聞に家庭欄や地域版を始めたり、イベントを開催したりして、部数を飛躍的に伸ばしたというようなことが書かれていたのですが、それは読売新聞のことのみでしたので、朝日のことも知りたいという興味があったわけです。

 他にも、明治期の新聞といえば、『坂の上の雲』にも正岡子規が新聞記者として記者として記事を執筆し編集していましたね。『はいからさんが通る』でも紅緒が新聞記者になっていましたっけ。新聞記者というよりも芸能記者みたいでしたけど。

 というわけで、本書ですが、序章「漱石争奪戦」で、朝日新聞社読売新聞社それぞれの夏目漱石の争奪戦を行ったこと、第一章「明治期の新聞事情」で近代新聞の誕生してからのこと、第二章「朝日新聞入社」で夏目漱石朝日新聞入社からのこと、第三章「朝日文芸欄」で新聞で初めて文芸欄を始めたエディターとしての漱石のこと、第四章「新聞記者夏目漱石」でその意味について書かれています。漱石の若手発掘の名編集者ぶりがわかります。穴が出来て、自ら穴埋めのためにエッセイなどを執筆してしまうところなど、いつの時代も同じですなあ。

新聞記者 夏目漱石 (平凡社新書)

新聞記者 夏目漱石 (平凡社新書)