ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『馬鹿者は金曜日に死ぬ』 A・A・フェア、井上一夫訳、早川書房、1957

 バーサ・クール&ドナルド・ラム・シリーズ全29作中12作目の作品。

 ビアトリース・ボールウィンという若い女性の依頼は難しいものだった。自分の叔父の不動産会社社長であるジェラルド・ボールウィンが、その妻のダフネがジェラルドに毒殺しようと企んでいるようなので、それを防いでほしいという。バーサ・クールは、高額の依頼料に目がくらんで、その依頼を引き受けてしまったのだが、「一体どうすればいいんだ?」というドナルド・ラム。
 まずラムは、ボールウィンが経営する不動産会社を訪れ、そのうち家を建てられるような土地はないか、と客を装い、不動産会社内の人間関係などについて、調査を始めた。
 そして、アンチョビー・ペーストを製造する会社の宣伝部と装い、ダフネに対し、上流夫人(今風でいればセレブか)の代表として広告にモデルとして出てほしいと申し出て接触を図った。
その時、現れたのが、依頼人のビアトリース・ボールウィンで、彼女はダフネの秘書のカーロッタ・ファンフォードだったのである。
 ボールウィン邸を出た後、ラムはカーロッタに本当に殺人を防ぐつもりがあるのかと責められる。ラムは、このように広告依頼をしておけば、その間は毒殺することはないだろうと説明する。
 しかし、ラムが持ってきたアンチョビー・ペーストを食べてジェラルドが倒れてしまった。幸いにして、カーロッタが病院に運んで事なきを得たのだが…。

 これから起こる毒殺殺人の予防してくれという、難しい依頼に対処するドナルド・ラム。この設定そのものの成立は、ペリイ・メイスン・シリーズでは難しいのでしょうが、その後のストーリー展開は、ラムが複数のプロの私立探偵に尾行を依頼し、その上で推理を組み立てるなど、テイストはラム・シリーズというより、メイスン・シリーズに近いものになっています。☆☆☆というところです。

馬鹿者は金曜日に死ぬ (ハヤカワ・ミステリ 389)

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