ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『イリヤの空、UFOの夏〈その3〉〈その4〉』 秋山瑞人、アスキー・メディアワークス、2002・2003

 中学生の少年と少女が主人公のSF青春ラブストーリー。どこか自身のない受け身の主人公の男の子、少し精神的にも肉体的にも普通と異なり虚弱なところがある女の子、妙に自信家で行動力があり頭の良い、超常現象好きの主人公の親友の男の子など、また、どこか実感のない戦時中の学校という設定など、どこか時代を感じさせてくれます。

 これは、本質的に「少年たちの夢」をきちんと描いている物語です。そう、ブラッドベリの「ウは宇宙船のウ」のように、「天空の城ラピュタ」のように。王道であります。

 中学2年生の主人公の浅羽は、同好会のような園原電波新聞部を親友の水前寺に引きずられるように立ち上げ、それなりに学校生活とその日常を楽しんでいる。超常現象研究ばかりの夏休みの最後の日の夜、こっそりと学校のプールで泳ごうと侵入したところ、同年代の少女がいた。彼女は驚いて鼻血を流したり、薬を大量にもっていたり、不思議な感じのする美少女だった。すぐにいなくなって消えてしまったが、2学期が始まり、その美少女のイリヤが転校してきた。

 読んでいると、いろいろな小説やアニメのなつかしい心地よい感覚が流れ込んでくるんです。主人公の浅羽のように、どういう理由かは分からないけれど、自分に好意を表明する可愛い女の子がいるというのは、いい設定ですよね。現実にはそんなことはないのですが、中学生ぐらいでしたら、自分に好意をもってくれるということ自体が、実に不思議なことであり、その理由など思いつかないものかもしれません。

 イリヤが何故浅羽のことを好きになったのか、明確には述べられていないのですが、行動描写を積み重ねることで、何かがあるのでは、と感じることができます。

 でも、私には、イリヤは魅力的ではなかったなあ。むしろ、浅羽の何気ない優しさに同調してしまった須藤晶穂のほうが魅力的に感じてしまったのであります。