ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『ミステリマガジン 2009年 06月号』 早川書房、2009

 発行からずいぶん過ぎてしまいましたが、『ハヤカワミステリマガジン2009年6月号』の座談会「翻訳ミステリ応援団!」が興味深い内容でした。これは隔月連載のようで、田口俊樹氏と北上次郎氏がホストとなって、ゲストとして第1回は書評家、第2回は翻訳家などが3名ほど招いて、翻訳ミステリの売り上げ低迷について、どのように業界として対処したらよいのか、座談会を行ったものです。

第1・2回も面白かったのですが、この6月号のゲストが、早川書房文藝春秋、新潮社の翻訳ミステリ担当編集者で、出版業界サイドからの現状と意見が述べられており、その右往左往ぶりに同情してしまいました。以下は、すべて同誌からの引用です。

「実際売れる部数は一番売れていた時期に比べると、半分以下かな」
「うちのビッグネームでいうと、三分の一だな」
「九〇年前後は初版五万部くらい刷れていたんですが、当時と同じレベルの作品でも今は二万部刷れないから獲らない。三分の一というのは実感なんです」

 書籍の売り上げについて語られていますが、私が勤めている会社は小説ではなく実用書ですのでジャンルは全く異なるのですが(万が一にも翻訳ミステリなどは出版できないところが私的には悲しい)、実感としては2000年ぐらいから落ちています。それ以前は、ある程度のレベルの内容を保持している書籍でしたら、一定部数以上が売れたのです。それから実感として2分の1ぐらいに減少しています。ですので、翻訳ミステリだけの問題ではないともいえるのです。

「うちから出た翻訳書の書評だけを切り抜いて、ファイリングしてるんですよ。昔は年に二冊ほどになったんですが、二〇〇一年くらいから年に一冊もたまらない」
と一般紙の書評の数が減ってきていることをもらしています。
「書評が出るか出ないかは本当に大きいファクターなんです。とくに新聞で文庫は扱ってくれない。ハードカバーならうまくするば扱ってもらえる」

 私の場合は書評をPDFファイルで保存しています。書評が出たからといって、売れるわけではないと思っていたのですが、文芸のジャンルでは影響力が大きいのでしょう(私が扱っているジャンルは、わかりやすいマニュアルではなく、内容に新味があり売れなさそうな本ほど書評されます…)。

「要するに現在は本当に翻訳ミステリが好きな読者に支えられている状態だと言っていいと思います」
「よくネットに、翻訳の値段が上がっているのは版権料が高いせいじゃないかと出ているけど、そうじゃない。出版はぼろ儲けできるほどおいしい商売じゃないんです」

 そうですよね。薄利ですし。

「出版社ってやっぱり、ネット利用はかなり後手をふんでいますよね」「翻訳つながりで、出版社の大連合みたいのは作れないの?」
……出版社の社員の立場としては、ちょっと難しそうな流れ。
「ミステリファンは潜在的にかなりいるんだけど、一人一人が孤立しているんですよ」「SFは何歳になっても大会に参加してる。そこに編集者だったり、書店員、評論家、作家も来る。そういうものがないと、われわれが大事にしようと言ってるコアなミステリファンもいなくなっちゃうかもしれない」

 海外ミステリファンは他のミステリファンと話をしたり連携をとったりする必要性を感じていないんじゃないですかね。少なくとも私はそうです。それは、ミステリファンとSFファンの違い、国内ミステリファンと海外ミステリファンの違いなのではないでしょうか。

 それにしても、『ダ・ヴィンチ・コード』が売れたというのは、ミスだったんじゃないかと。だって、面白くなかったからねえ。初めて海外ミステリに触れた人は、退屈したのではないかと。