ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『幻の女』 香納諒一、角川書店、1998→2003

 ハードボイルド作家の加納諒一氏の出世作となった、第52回日本推理作家協会賞受賞作。発表が1998年なのでおよそ10年前の作品。

 弁護士の栖本は、5年前不倫のつきあいをしていたが姿を消した小林瞭子と街中で偶然再会した。その翌日、瞭子は栖本宛の相談の依頼の留守電を残し、殺されてしまったことを知る。留守電の相談の依頼が気にかかった栖本は、彼女の死について、自ら調査を始める。瞭子の故郷に赴き、幼少時のことを調査したところ、瞭子は別人だったのではないか、他の誰かではないかと疑うようになった。いったい、瞭子とは何者だったのかと疑問をもつようになるのだが…。

 「幻の女」といえば、ウイリアムアイリッシュですが、「幻」という形容詞はそれがタイトルなど単語につくだけで、怪しい魅力をもつわけですが、本書は、それをハードボイルド・タッチで男の幻想、失われたものを取り返すという、誰もが抱く「夢」を再現していきます。

 ストーリーは、政治と行政、土木産業との複雑な絡み合いを調べていくことになり、複雑になります。どんでん返しもあり、引き込まれますが、作者は重要視していないようにも感じます。

 文庫にして700ページと長く、もうちょっと短くできるのではないかとしばしば感じました。この作家のスタイルなのでしょうがないのですが、主人公が自らの心情をもらし、また台詞で説明しまう描写方法は、いかにも劇画風であり、私には合いませんでした。よく考えてみれば、主人公の造形などディック・フランシスの主人公に似ており(例えば、何か病気になったりすると、アスピリンを噛み砕いて飲んでしまうところ)、影響を受けていると思われますが、何か根本的に違うような気がします。

幻の女 (角川文庫)

幻の女 (角川文庫)