ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『不思議な国の殺人』 フレドリック・ブラウン, 船若敏郎訳、東京創元社、1950→1964

 『火星人・ゴー・ホーム』などのSF作家として名高いフレドリック・ブラウンの長編ミステリで比較的初期の作品。カバーの紹介文では、「『不思議の国のアリス』で始まり、アリスで幕を閉じる鬼才ブラウンの異色長編」と書かれておりますが、ミステリのスタイルも多様化した現代では、むしろ正当なミステリ長編といった感じになっています。

 カーメル市の週刊新聞『クラリオン』の発行人兼編集人が主人公で、当時の編集者がどのような存在だったのかも愉しめる要素の一つです。

 その主人公のドックは週刊新聞の発行人兼編集人。いつもは事件が起きることがない田舎町であったが、その夜は、さまざまな事件が起きたため忙しくなった。銀行に侵入した泥棒、花火大会の事故、経営者の離婚、郡立精神病院からの脱走者の出現などだ。ところが、ドックはいきなり拳銃を突きつけられて脅され、山中に車で連行されて、逆に犯人を捕まえる。続いて、『不思議の国のアリス』マニアの集会に呼ばれて伺ったところ、そのホストがドックの目の前で毒殺されてしまい、ドック自身が殺人犯として疑われてしまうのだ。誰か俺を陥れたヤツがいる…。必死に推理をするドック。

 ストーリーそのものに前半と後半のアンバランスはあるものの、前半の新聞記者としての活躍は面白く、後半の謎の設定は魅力的で、事件のテンポのよさもフロスト警部シリーズを思わせるほどテンポがよく、そのうえ謎解きも解明されると単純なものなので、一杯食わされた感が強く、☆☆☆☆です。このトリックは、現在改めて用いてもよいのではないでしょうか。

不思議な国の殺人 (創元推理文庫 146-4)

不思議な国の殺人 (創元推理文庫 146-4)