ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

 『闇の淵』 レジナルド・ヒル,嵯峨静江訳、早川書房、1988→1991

 アンドルー・ダルジール警視・シリーズ全21作中10作目の作品。

 3年前にイギリスの田舎の炭坑町で起きた幼女失踪事件。その犯人は遺書を残し自殺を遂げていた。しかし、そのなかの幼女行方不明事件の犯人と村の中で噂される男がいた。その事件の真相をあぶり出そうとする新聞記者が、炭坑の人々の静かにしていた疑惑を呼び起こしていたところ、炭坑でその男の息子が、撲殺殺人を犯し、逃亡を図る、というストーリー。

 冒頭からミステリとして読むとなかなか殺人が起きず、中盤でようやく殺人が起きるため、退屈するのだけど、その前半に張られた伏線が最後にに収斂していくので、我慢が必要になります。

 ミステリとして読むよりも、むしろ普通小説としてとらえた方が愉しめるかもしれません。ネタそのものは非常に面白く、最後にある人物が真相を告白するのですが、あっと驚くこと必死です。東野圭吾氏やトマス・H・クックが使いそうなネタです。

 しかし、事件そのものはなかなか説明しないため、ストーリーそのものを理解するのに時間がかかります。東野氏と料理の方法が異なるのです。しかし、その描写の仕方は、読者に体感を促すために、非常に魅力的でもあるのです。そのため、まるで人生を寄り添ったかのような読後感を味わうことができます。そのような小説は多くはありません。

 そういう意味で総合的に評価しますと、☆☆☆☆というところなのですが、あまり他人には勧めることができる小説ではありません。これでリーダビリティがあれば、傑作だったでしょう。