ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

サラ・パレッキーが語るアメリカの出版事情の変化

 『ミステリマガジン 2009年8月号』のサラ・パレッキーの「沈黙の作家の時代」という自伝に興味深かった箇所がありましたので、転載。ちなみに「沈黙の作家の時代」は連載で、8月号は連載5回目。来年に単行本化されるとのこと。

 1980年代にアメリカの出版業界が衰退すると同時に、本の流通経路が書店からディスカウントストアに移り、それに伴い、出版業界の再編成がなされた解説がなされ、その具体的な現象として、サラ・パレッキー自身の体験を語っています。

 ここでは、出版界を通したグローバリズムの影響が如実に語られています。デビュー時に3500部売れればビジネスとして成り立っていたものが、今日では25000部売れなくては成り立たない、という事実です。

 わたしが作家としてデビューしたとき、図書館が大きな役割を果たしてくれた。デビュー作の『サマータイム・ブルース』の売上げは約三千五百部で、そのうち二千五百部は図書館が買いあげてくれた。いまの時代の出版社は、長篇のハードカバーの売上げが二万五千部までいかないことには、作家との関係をつづけていこうとしないが、二十年あまり前は、その七分の一の数字でまずまずの成功とみなされたものだった。わたしの出版社も(いまはもう存在しないが)、二作目の執筆を依頼してくれた。
 今日では、新人作家をとりまく状況があらゆる点で昔よりきびしくなっていて、そのひとつが図書館の購入部数の激減である。この二十年間に、どういうわけか、アメリカ人は公共の利益のために税金を払うなど言語道断だと考えるようになった。その結果、図書館の予算がくりかえし削減され、いまでは、図書館の書籍購入費賀に十年前の三分の一になってしまっている。
 もちろん、図書館であれ、学校であれ、医療であれ、とにかく公共の利益を支えるための税金を払わされることに、多くの人々が憤慨している。(中略)多数の者が、公立図書館と公立学校を社会主義だの共産主義だのと呼んでいた。いまの時代も似たような人々が似たような主張をしていて、学校、医療と共に、図書館にもその被害が及んでいる。

 恐ろしい話です。そういえば、翻訳者から翻訳したい本があると依頼を受けて、版権があるかどうかエージェントに問い合わせたところ、それまでとは異なる、えらく高い印税を設定されました。どうにか低く交渉できないか訊いてみましたが、結局はパレッキーの描いているとおり、アメリカも多様な版元があったようなのですが、買収と再編が進んで、版元名は存在するものの、すべてグループ企業となっており、ほとんど大きな版元一社が占めているようなので、あまり交渉しても難しいと言われましたのを思い出しました。