ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『リバースエッジ大川端探偵社 1巻』――狩撫氏の探偵物の復活

 あの名作「ハード&ルーズ」以来の狩撫麻礼氏の「探偵物」! プラス、「迷走王 ボーダー」で組んだ、たなか亜希夫氏とのコンビの復活! もうそれだけで十分にお腹いっぱいの新作です。ファンでしたら、満足できるものとなっています。

 禿の老〜中年男が所長、20〜30台の男、10台の若い女がメンバーの探偵事務所が舞台。一匹狼だった「ハード&ルーズ」の探偵とは異なり、3名いるのですが、主に調査活動を行うのはチームとしてではなく、若い、髪の毛がボサボサのムラキという男。冒頭で依頼人が現れ、淡々と調査を片づけていく短編集です。しかし、読後感は、残念ですが、作者たちが二人とも歳をとってしまったんだなあということ。

 狩撫麻礼氏の作品は、「ボクシングや映画などをモチーフとした、骨太な筋立てのヒューマンドラマ的な作品が大半を占める。主人公の反時代的な思想が作者独特の語り口で表現される作風は、ファンの間で「狩撫節」と呼ばれる」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8B%A9%E6%92%AB%E9%BA%BB%E7%A4%BC より)とされています。

 そのため、一見つかみ取りづらいのですが、いわゆる「都市伝説」やオカルト、変態性欲をもつ人びと、ボクシングや映画や音楽などマイノリティなものへの偏愛は、むしろ正統的なオタク的スタンスと一致しているのではないかと感じます。時折、オタクという人びとへの極端な否定的な描写がありますが、それは自らの姿を無意識に映しているのであり、そのアンビバレンツな考え方に対して共感をもつ人が、強烈なファンになるのではないでしょうか。私もその一人なのです。

 蛇足ですが、私は「ハード&ルーズ」の主人公・土岐が、自分に尊敬の眼差しをもつ赤松の誘いに負けて、「一生他人と連帯することがないと信じていた」のだけど、5名で探偵事務所を開いてしまう物語によって、大げさにいえば人生を救われたと感じたことがあります。できましたら本作でも、そのような動かざるをえない人生が描かれんことを。

リバースエッジ大川端探偵社 1巻 (ニチブンコミックス)

リバースエッジ大川端探偵社 1巻 (ニチブンコミックス)