ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『つかみそこねた幸運』E・S・ガードナー, 宇野利泰訳,早川書房,1964→1965

 弁護士ペリイ・メイスン・シリーズ全82作中73作目の作品。なんと原著発行の翌年に翻訳されています。

 ガードナーにしては、冒頭から犯罪とははっきりしない事件。殺人は、半分を過ぎた後しばらくして起こります。前半部分は、その殺人事件の犯人をわざと意外性のものにするために作ったお話のようです。トリックも、2発の銃弾があって、それぞれが異なる人物によって発砲されたものであるというもので、目新しいものはありません。といっても、ガードナーですから、スピーディで退屈することはありません。☆☆☆といったところです。

 また、あとがきのガードナー来日時のことが興味深い。日本探偵作家協会が一晩だけ招待して、松本清張などが挨拶をかわし、食事会を設けていたことが書かれています。それに日本の探偵作家による質問に対して、ガードナーは創作方法の一部を披露しています。

 それによると、もっとも大切なのは、作品のなかでつねに正義と悪を、善人と悪人をぶつかり合わせることである。たとえばAという男がある家の主人を殺して、慌てて車でその家から逃げ出す。ところが門を出たところで医者の車と衝突する、この医者さん(原文ママ)は急患があるので一分でも早く行かなければならない。彼は事故で遅れることを急患の家へ連絡するため、Aが出てきた家の電話を借りようとする――これで話の書き出しができる。つぎにこの医者が家のなかに入ると、そこへ死体がある、驚いて逃げようとすると、あとをついてきたAにつかまり、しばられてしまう。医者は一刻も早く急患のところへ行かなければならないのだ。(本書209頁より)