ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ハマースミスのうじ虫』ウィリアム・モール, William Mole, 霜島義明訳,東京創元社,1955→2006

 植草甚一が責任編集をつとめた翻訳ミステリ叢書「クライム・クラブ」の第1回配本だった作品。長らく評論のみで知られていたけど文庫などで復刊されなかったため、幻の作品といわれていたもの。私が最初に知ったのは、別冊宝島の『ミステリーの友』でどなたか忘れてしまったけど、探偵という職業の嫌らしい側面に光を当てた傑作として紹介されており、興味をもっていました。復刊していたことをまったく知らず、新横浜のブックオフで偶然見かけて購入しました。

 ワイン商のキャソンは、酔っぱらった銀行重役のロッキャーが、見知らぬものから、1000ポンド支払わなければお前は同性愛者だということを公表するぞと脅迫を受けたと愚痴を聞いた。キャソンはパゴットと名のる脅迫者のことを聞いたがロッキャーは50歳ぐらいであること、あか抜けない言葉づかいをすることなど、曖昧な情報しかなかった。しかし、彼はローマ時代の胸像に興味をもっていたという。

 その情報を元に友人の警察警視に聞いたところ、覚えがないか、一人脅迫者が思い当たるという。同一人物と確信したキャソンは、ついに古美術品の競売会場で、パゴットの条件に当てはまる男を見つける。キャソンは、酒場でその男と親しくなり、その男の真向かいのアパートに引っ越して見張りをしてまで、犯人かどうか確かめる。そして、証拠はないが犯人であると確信したキャソンは、パゴットがぼろを出すように罠をしかける――。

 読んでみての感想はというと、探偵の嫌らしい側面というよりも、対象を個人に当てたスパイ小説という感じで、未だに新しかった! 普通に悪党が書かれており、シンプルで素晴らしいと思いつつも、何となく食い足りないところもあって、それがクラシック作品にまではならなかった理由かなとも思ったり。☆☆☆★といったところ。

ハマースミスのうじ虫 (創元推理文庫)

ハマースミスのうじ虫 (創元推理文庫)