ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『“文学少女”と穢名の天使』野村美月,竹岡美穂,ファミ通文庫,2007――耽美的なミステリ

 文学少女シリーズ第4作目。相変わらずの事件に巻き込まれた心葉とその謎解きをする(ときどき間違うこともあるけれど)文学少女の物語。本作は、ガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』をモチーフに物語が進みます。

 遠子は受験勉強のため文芸部を休部宣言する。その間心葉は、音楽教師の毬谷の資料整理の手伝いを、ななせと一緒に行った。一方、ななせの友人の音楽学校で声楽を勉強している夕歌が、失踪してしまった。夕歌からはななせのもとへクリスマスの公演までには戻るというメールが来た。いったい夕歌はどこへ行ったのか? なぜ姿を見せないのか? 心配したななせを手伝う心葉だが、夕歌を知る男が現れる。また、麻紀などのネットワークを通して夕歌の家族が亡くなったこと、そのために夕歌が何をしていたかを知るのだが……。やがて、クリスマスが来たる。

 私は、『オペラ座の怪人』については、映画の「ファントム・オブ・パラダイス」ぐらいしか知らないので、途中少し置いてけぼりになりました。ストーリー的にも中盤少し説明的なところもありました。しかし、ラストシーンの、おそらくは横溝正史あるいは京極夏彦に影響を受けたと思われる、冥く美しき犯罪者像、明智小五郎的なトリックは懐かしく愉しいものです。前作までは私立探偵小説的でしたが、今回は古き良き探偵小説的でしたねえ。

 この作家は、中途のモノローグが誰のものなのか示していませんが、このモノローグが謎解きというよりも、読者に対し中途のサスペンスを盛りあげる役割を果たしていることから、あえて視点を統一していません(決して視点そのものに興味をもっていないわけではない)。読者を楽しませることに徹しています。前3作ほどではないところから☆☆☆★です。

“文学少女”と穢名の天使 (ファミ通文庫)

“文学少女”と穢名の天使 (ファミ通文庫)