ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『陪審員はつらい』パーネル・ホール, 田中一江訳,早川書房,1990→1994

 調査員スタンリー・ヘイスティングス・シリーズ第6作目の作品。陪審義務を課せられたスタンリーが殺人事件に巻き込まれるお話。

 個人事業主なので陪審義務の拒否を願い出たものの、20年以上前の脇役での出演によるシュワルツネッガー主演の映画の再放映があるたびに少額の出演料が収入として換算されるため、陪審免除を受けられないスタンリー。しぶしぶ裁判所に行くと、ビル火災の損害訴訟の陪審員選任されてしまった。おまけに、同じ陪審員として美人の舞台女優のシェリーの送り迎えをすることになってしまった。妻のアリスに言い訳しつつも。

 数日後の朝、シェリーを迎えにアパートに行くと、部屋のなかで全裸の絞殺死体で発見したのだ。当然犯人として警察に疑われるスタンリーは、犯人を捜す。シェリーの関係者に一人一人当たったところ、シェリーは出身地を偽っていた。その偽りからスタンリーは犯人を推理する。

 このシリーズはドタバタで読ませるものではありますが、本作の前半はそのドタバタばかりで、170頁過ぎにしてようやく死体が発見されるというのはちょっと遅すぎ。捜査する警官が無能なため、しかたなく事件を捜査するというのにはニヤニヤさせられますが。捜査そのものは、本文でクリスティが言及されているとおり、一人一人を尋問していく過程をきちんと描いていていたり、スタンリーの推理は法廷で行われたり退屈しないのですが、最後の犯人は「誰、それ」とちょっと唐突な感じ。前半のドタバタ部分に伏線がはってあるとはいうものの、きちんと描写されていない人物ではね。そういう意味で評価は低いものの、このシリーズはこのドタバタが好きなので、☆☆☆★とちょっと甘め。

 やはり、アメリカ人も陪審義務は面倒くさいものなんですねえ。その間収入が得られないとすれば当然といえば当然か。

陪審員はつらい (ハヤカワ・ミステリ文庫)

陪審員はつらい (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 原著は以下の通り。まったく面白くないですね。

Juror

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