アガサ・クリスティ21作目の長篇作品。同年発表に『ナイルに死す』。クリスティは、20年ぶりぐらい。私は海外ミステリに、クリスティの『死者のあやまち』からのめり込み始め、それから20作ぐらい読んだものです。
それに並行してクイーンの国名シリーズ、カーの有名作などを読んでいたにもかかわらず、一時期はトリックの多彩さに「ミステリはクリスティに尽きる」と考えていたくらいです。しかし、ハードボイルド、スリラー、サスペンス、冒険小説とジャンルを広げるにつれて、謎解きミステリに対し、「意外性のある犯人」そのものに食傷してしまい、何を読んでも愉しめなくなるスランプになってしまいました。それから再生するのは時間がかかったものです。どうやら、それは謎解きミステリファンには、イニシエーションともいうべきものだったようですが。
というわけで、本作ですが、ポアロはある田舎住まいの老婦人エミリイから、調査料を教えてほしいという蜘蛛の巣のような線が引かれている手紙を受け取った。その日付が2カ月前のものだったことから、その老婦人が住んでいた田舎町をヘイスティングズと訪ねてみると、エミリイは2カ月前に病死したというのだ。村の不動産屋に聞くと、エミリイは、巨額の遺産を一人の甥、二人の姪ではなく、自分の家政婦に相続させたというのだ。その状況に不審なものを感じたポアロは、村中の関係者に訪ねて歩き回るのだが……。
これは、ポアロに誰も事件調査を依頼したわけでもなく、いや事件すら起きているか不明なのですが、殺人事件出るとポアロが確信をもち、関係者を一人ひとり訪ねて回るところで、お前はどういう権利があって調査をしているんだと何度か違和感をもちました。これは現代の感覚であって、本書が発表された1937年ではおかしなことではないのでしょう。
最後まで事件にはならないところが謎解きミステリに仕上げたいというクリスティの目的だったのでしょう。また鏡を用いた証言の不完全性、特殊な毒の使用に対し二人の医師を容疑者として配置、容疑者から一人ひとり削除していくシーン(クリスティなどではお馴染みですが、久々に遭遇して、このドキドキ感はめっちゃいいですね)など愉しめました。とはいえ、とくにオリジナリティはなく、☆☆☆というところです。
- 作者: アガサクリスティー,Agatha Christie,加島祥造
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/12
- メディア: 文庫
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