ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『はなれわざ』クリスチアナ・ブランド, 宇野利泰訳,早川書房,1955→2003

 本作は傑作だと思います。しかし、他の人に勧められるかというと、なかなかできる作品ではありません。というのは、本作は三人称で説明されているものの、そのテレビカメラのように視点が次々に移動し、それをあまり意識せずに読んでいると、「えっ、ここは誰のことなの?」と混乱してしまい、確かめるためにもう一度読み返すことがしばしばありました。最初は、映画みたいだね、なんてお気楽に思っていたのですが……。またストーリーそのものも、当たり前ですがアクションもなく、会話だけで流れているので、退屈を味わってしまいます。

 イタリアの地中海のあるサン・ホアン・エル・ピラータ島に休暇を愉しみにツアーで訪れたコックリル警部。そのツアー客には、作家、ファッションデザイナー、右腕をうしなったピアニストなどだった。各々が自由に海辺で休んでいたところ、謎めいた独身女性が部屋で刺殺された。コックリルは、状況からツアー客の一人が犯人と考えられると推論したところ、他のツアー客の誰もが犯人の可能性があると推理が披露されるのだが…。

 しかし、それらを我慢して最後まで読めば、状況からコロコロ展開される推理劇と「はなれわざ」といってもよい、トリックが味わえるでしょう。この「はなれわざ」という言葉には、飛び道具的な要素も含んでいるところも魅力的ですよ。私にとって、他の人に勧められる場合レートを☆4つ以上としていますが、このダイナミックなトリックに、あえて☆☆☆☆★です。

はなれわざ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

はなれわざ (ハヤカワ・ミステリ文庫)