ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『デフレの正体――経済は「人口の波」で動く』藻谷浩介,角川書店,2010

 「上半期新書ナンバー1」というオビがあったのと、何よりも著者がずいぶん前に『中央公論』で発表していた論文に感銘を受け、藻谷という人は評判にはならないかもしれないけれど、いつか素晴らしい書籍を発表するだろうと覚えていましたので池袋ジュンク堂で購入しました。その『中央公論』の論文は、きちんと覚えていないけど、たしか地域再生についてで、データを一つひとつ積み上げていって、実証するというものでした。

 本書もその通りのもので、パブリックにされているデータを挙げて、日本は国際経済競争で勝利していること、それにもかかわらず内需が不振していること、首都圏と地方の地域間格差はないことを述べて、これからどうしたたらよいかを具体的に挙げています。本書を読むと、景気が悪いという言葉に踊らされつつ、それに矛盾する現象が何故起きていたかが、謎解きミステリのようにスルスルとほどけていきます。

 例えば、本書では少ししか触れていないのですが、労働の流動化が経済復活の鍵という論についてです。私は当初、労働の流動化に非常な共感をもっていたのですが、社会保障との観点から考えると、流動化は必ずしも良い方向にはならないのではないかと疑っています。どう考えても、社会保障とワンセットになっていなければならないでしょう。本書ではその点、あくまでも高齢富裕層から若者への所得移転をすることが必要であると語られています。

 それにしても国立社会保障・人口問題研究所を「社人研」と略しているのが、内向きな感じがしましたね。私も社内レベルではそう口にしますが、文章上では使わないですよ……。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)