ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる』佐々木俊尚,筑摩書房,2011

 タイトル通り、既存のマスコミのみならず、ツイッターフェイスブックなどによる情報のやりとり・統合・つながりが行われ、それが力をもつようになる、いやすでになっているというもの。著者には申し訳ないけれど、主張は全面的に賛同しつつ、これはやっかいな時代になっていくのだなと憂鬱になった。それはネット社会になって、私にとって、ようやくいい時代になったと安堵していたからだ。

 本書で説明されているキュレーターとは、もちろん博物館などに属する学芸員から転用されているもので、一次情報を収集・分析・統合して、新しい価値・意味を見いだす役割をいっているものと思われる。それは、書籍や雑誌の編集そのものと同じである。編集者が担ってきた役割そのものである。

 本書では、「一億総キュレーション」の時代であるとしているが、そんなことはなく、優秀なキュレーターがいれば、そうでないキュレーターがいて、優秀なキュレーターのみが残るはずである。

 また、本書のもう一つのキーワードとして「つながり」が挙げられている。しかし大きな視点から見れば、世界が専門化+分業化+分割化していくことを示しているように思う。一方、この「つながり」をもつ人々が発言力などの力をもつことになることも憂鬱である。私のような意図的につながりをもちたくないという人間にとって、それは自分の力の縮小化を示すことである。いいじゃないか、2ちゃんねるやブログのような「緩やかなつながり」で、そのほうが気楽なのにと落ち込んでしまった。

 ちなみに、バブル時代はその「つながり」の強制力が強かった時代であった。だれも指摘していないから間違いかもしれないけど、私のようなバブルのノリについて行けなかった少数派の考え・主張はまったく顧みられなかった時代だったんだよ。

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)