本作は、雫井氏の5作目の作品。第7回大藪春彦賞受賞、第2回本屋大賞7位、週刊文春(ミステリーベストテン)第1位、2005年度「このミステリーがすごい!」第8位など、大いに評価を受けていたので気になっていましたが、雫井氏の作品は『火の粉』を読んだきりで、書評の中には自分と合わない作品ではないかとも感じていましたので、現在まで読むことがありませんでした。『火の粉』そのものは非常にサスペンスフルで愉しんだのですが。
本作の読後感は、テレビ受けをしそうな派手な作品であるという予想に反して、エド・マクベインに似ているなあ、ということでした。それは、非常にリアリティがあること、派手な展開ではあるものの、シーンが地道に積み重なれていること、またリーダビリティが高く――これは『火の粉』も同じでしたので雫井氏の特徴なのでしょう――ストレスなく一気に読むことができること、そして、ストーリーの解説に必要以上の説明がなく、きわめて省略がなされていることが挙げられます。とくに、犯人像であるとか、最後のクライマックスのシーンなど、描写しようと思えば、もっと派手にできるはずですが、あえて省いています。このストイックさは87分署の初期作を思い出させました。
じつは最初の20頁ぐらいまでは、登場人物の心的描写があまり好きではありませんでした。それがストーリーの潤滑油になっていることは分かるのですが。なかなか読み進むことができなかったのですが、そこを過ぎて慣れてしまうと、下巻の最後まで一気読みできました。しかし、☆☆☆★というところです。それは、エド・マクの作品の多くが、それくらいの評価になってしまうことと同じ理由です。
- 作者: 雫井脩介
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2007/09/13
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